かち合う瞳は気のせいか?






オレがでた入隊式に、最後まで茜色は現れなかった。







「たーいちょ!」
「……あぁ゛?」

ぼふっと頭の上に重い漬物石を二つ乗せられ、オレは声と漬物石の持ち主である副官の松本を見上げる。

「まぁた一護を見てたんですか?」
「……うっせえ」

窓の向こうには十番隊(うち)の四席と話しをしている一護の姿。

「あたしはてっきり、一護の方が先に隊長になると思ってたんですけどねー」

バチッと一護がこちらを見たので視線が合う。一護は軽く会釈し、松本はひらひらと笑顔で手を振る。オレはといえば、近づいてきた霊圧に気付いて眉を顰める。

「なんたって入隊してすぐに副隊長就任。十一番隊の悔しがり方は半端じゃなかったですよねー…ってア、一護が隊長になれない原因が」

松本が指を差すより早く、そいつは一護の後ろから抱き付いた。
月色の髪が、茜を覆う。

「浦原喜助…」

十二番隊長にして技術開発局局長、なにより一護の直属の上司。

「そういえば隊長知ってます?あの噂」
「んなの知るかよ」

だいたいその言い方じゃどの噂かもわからねぇし。

「ほらアレですよ、浦原隊長と一護が同棲してるって……隊長、素直になった方がいいですよ」
「ッ…………うるせえ」

話の途中、その言葉につい手に持っていた筆に力がこもり、バキッと音を立てて真っ二つに折れた。
松本は哀れむような視線を向け、一護は用事が終わったのか隊舎から出ていく。
背中にデカいのをくっつけたままで。




「一護!」

好きな女にほかの男がべったりくっついているのはやはり不愉快で、大声で叫べば一護は振り向いて次の言葉を待つ。背後の浦原は、まるで研究対象を見るような視線でオレを見る。

「……さ、最近よく目が合うよな」

後ろから松本に肘で突かれ、オレはぐっと腹筋に力を込めて切り出す。

「そう?」
「ああ、気のせいじゃない」
「……」

首をかしげた一護にすっぱりと言い切れば、一護は困ったように一度ちらりと浦原を見上げ、視線を下へ向ける。

「いち」
「だから何だって言うんですか、日番谷サン」

あ〜、う〜と唸る一護を見かねたのか、それとも一護の意識を独占している俺にイラついたのか、浦原が俺の言葉を遮るように口を挟む。

「目が合うから、何だって言うんです?」
「…てめぇに関係ないだろう」

責める様な口調の浦原に、俺は返す言葉をもたないため口を挟むなと言う。

「関係有りますよ。アタシの可愛い一護サンのことですからね」
「なっ!!」

その答えに鼻で笑った浦原は、一護の首に回していた腕を引き寄せ、殊更見せ付けるように一護を抱き締める。
一護はまるでそれが当たり前のように、嫌がりもしない。

今の言葉に廷内に広がる噂。

「…一緒に住んでいるって噂は」
「本当っスよ」

ぎりっと噛締めた奥歯が音を立てる。



余裕の表情を見せる浦原に、

動きの無い一護にさえも苛立っていく。



「ちょっと重い」

沈黙の中、拳がミシミシと言い出した頃、一護が浦原の身体をのけるように顎を押し上げた。

「あのさ、冬獅郎…乱菊さんと付き合ってるって本当?」

「は?」
「へ?」

俺が、誰と付き合っているって、こいつは言った?
乱菊?乱菊って…………

俺が後ろを見上げれば、松本とばっちり目が合う。
クラッシュしかけた頭が情報を整理し始め、もう一度一護を見て、

「絶対にありえない」

眉間の皺をこれ以上無い位に刻み、きっぱりと告げたのだった。


「あ…そういえば、隊長と一護が目の合うところあたしよく見ましたね…」

つまり、そういうことか?
俺とこいつが付き合ってるって誰かから聞いて、それが気になって俺のほうを見てたってことか?



「どこのどいつだ、んなくだらねぇことぬかしやがったのは!!」

もしかしたら一護が俺のこと気にし出したんじゃないかって言う俺の喜びを返しやがれ!!

「え…誰って」

一護の視線は迷いなく上、浦原のほうに。

「浦原、テメェ…!」
「アラァ、違ったんですかァ?」

完璧にわかっていたと言う風な表情に、そらされた瞳。

「浦原っぁあぁぁ!!!」

霊圧を解放した日番谷とそれに追いかけられる浦原の追いかけっこは、総隊長の斬魄刀の解放まで続けられたのだった。

















「一護」




「乱菊さん?」

走り去っていった二人を呆然と眺めた後、そこに残っていた一護の表情を見て声をかければ、やはり笑っていた。

「あんた、隊長のこと…」

隊長は苛立っていたから気づかなかったみたいだけど、あたしと隊長のそんな噂を気にしてこっちを見てたのって、隊長と全く同じ気持ちの現われじゃないの。つまり……。

「秘密です」

ああ、隊長が落ちたのがわかる…

人差し指を口元に当てにっこりと笑った一護に、あたしはクラリときてしまう。

意外と小悪魔だったのね…意外な一面を知っちゃったわ〜と、考えにふけっていると一護は腕を伸ばして背伸びをする。











「だって、冬獅郎絶対に乱菊さんのこと好きだし」

くるりと振り返った一護から会心の一撃。


「い、一護?」

「よく乱菊さんを探してるし、あの冬獅郎が傍においてるもんね!」

いや、それはあたしが副隊長で、サボっているからで…

「黒崎副隊長!!」
「あ、すみません乱菊さん、呼ばれてるんで失礼します」

「あ、ちょっとま……ってって、速いι」

訂正しなきゃと顔を上げれば、少し離れたところから十二番隊の隊士が一護を呼び、一護はペコリと一礼して瞬歩で去ってしまう。

「……小悪魔じゃなくて超天然小悪魔」

去っていった一護を思い出し、乱菊は頭痛が起こり出した頭を抱える。

「隊長ファイト…」

彼女を自覚させるのはかなり大変です。











あ!



「一護、浦原隊長と一緒に住んでるって…」


浦原隊長は言っていたけど、それってどういうこと?


















数日後

阿近の言葉によって、あたしは、その疑問を解決した。

え、隊長には?

……阿近に口止めされたから教えれなかったわ。流石のあたしもあの浦原隊長の新薬の実験体にはなりたくないからね。









オマケ
↓↓↓

















真実発覚








あれから数年後


「だいたい、なんで一護は浦原にはベタベタさせるんだよ!」
「冬獅郎飲みすぎだよ」

完全に酔いの回った隊長は、一護を逃がすまいとしっかりと肩を掴み、問い詰めるように叫ぶが、一護は平然として冷水を差し出す。

「んなのどうでもいい!」
「はいはい、どうでもよくないからとにかく飲めって」

ガクガクと肩を前後に揺らしたため、一護が持っていた水は机の上に零れる。それに溜息をついた一護は隊長の肩を掴み返し、手馴れた様子で強制的にグラスを口元に寄せて飲ます。

「大体兄妹なんだからベタベタも何も無いよ」

無理やり飲まされた隊長は、気管にでも入ったのか机に手をつきゲホゲホと咳き込み、一護はやれやれと言った様子でその背を擦りながらさらりと答えを返す。


「兄妹?」
「喜助は兄さんだし」

「兄?」
「……何で皆急に静まって」




「「「嘘だーーーーー!!!!」」」


修兵とあたし、そして硬直してしまった隊長以外のその場にいた全員が、見事にはもった瞬間だった。










END



日一?
日→←一?

あれ?
すみません。なんかくっついてんだかくっついてないんだか微妙な終了に…

一応、設定として「真実発覚」の時にはくっついていますよ。だから、自分の恋人とベタベタする浦原にイラつきが限界まで達しているんです。


最後になりましたが、浦原と一護が兄妹なんていうイロモノ設定、嫌いな方には謝罪を。





(お題配布:コ・コ・コ様)



2006/10/10



あきゅろす。
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