予想以上に最悪

一目見て恋に落ちるなんて事があるなら、逆もまた有り得るのかも知れない。




SIDE冬獅郎


「あ、悪ぃ……お前、どっから紛れ込んだんだ?」

入学して二週間。
初めて交わした会話がこれ。予想をかなり越えて最悪。

「お〜い。ちっこいの、聞いてるか?」

元々気が長くない事は自覚してんだよ。
それでこれか?
第一同じ学級だぜ?

「オイ、黒崎一護」
「……なんでオレの名前知ってんの?」

女だからとギリギリ我慢してれば、マジか?
悔しいけどなぁ、俺は自分が他より少し背が低いから目立つことも知ってんだ!

「同じ学級だ」
「あ、そうなんだ。小さいのに凄いな」

青筋がぴくぴくと動く。また言ったよな、こいつ。わざとか?

「……」

これ以上話していると苛立ってどうしようも無いから、横をすり抜けてさっさと離れた。

次は鬼道だ。さっさと会得して卒業して、出世してこき使ってやる。
改めて決心を深めた。












SIDE一護

「あ、悪ぃ……お前、どっから紛れ込んだんだ?」

外からの隠す気のない霊圧に気を取られていると、誰かとぶつかる。慌てて振り返ると…目線を少し下げた所に銀色。
子ども?
迷い込んだのかと声をかけるが、俯いたまま返事はない。

「お〜い。ちっこいの、聞いてるか?」

名前がわからないから見た目的に呼びかけると、体を小さく震わせた。

「オイ、黒崎一護」

突然顔を上げたかと思うと、オレの名前を呼ぶ。
目立たないようにしていたつもりだったけど、やっぱりこの髪の色目立つのか?…て、さすがに迷い込んだ子どもまで知っているって変じゃねぇ?

「……なんでオレの名前知ってんの?」
「同じ学級だ」

尋ねれば翡翠の瞳が細められ、ぶっきらぼうに答える。
同じ学級?人の顔を覚えるの苦手だからなぁ…。

「あ、そうなんだ。小さいのに凄いな」

覚えてねぇから、とりあえず無難に答えておくことにした。

「……」

翡翠の瞳をしたそいつは、小さく息をつき何も言わずに横をすり抜け、さっさと歩いて行った。

愛想悪…。
同じ学級なら、一言言ってから去っていけよ。

こんな初対面じゃ、オレのアイツに対する印象が悪くなったのはいうまでもない。





「……日番谷冬獅郎ねぇ」

鬼道の授業が終わり、お気に入りの木陰で弁当を食べながら、ぼんやりと先程の授業を思い出した。

初めての授業だと言うのに軽々と二桁の破道を放ち、他と比べ圧倒的な才能の差を見せつけた少年。ぶつかった時にさほど強く感じなかったのは、すでに霊圧のコントロールが完璧に出来ているからだ。教官が嬉しそうに「天才だ!」なんて叫んでた。

「……天才だろうと何だろうと、性格悪すぎ!」

思わず強く握り締めた箸が、みしみしと悲鳴を上げる。



オレの番になって鬼道を放ってみたけど、やっぱりというか全然ダメだった。その時、アイツ、日番谷冬獅郎の奴、フンッて鼻で笑いやがった!マジでムカついたけど、教官が何か言ってたから怒鳴ることも出来ねぇし、あぁムカつく!

あぁそうさ、はっきり言ってオレは鬼道が苦手だ。霊圧のコントロールとか訳わかんないし、自分が頭より体が先に覚えるタイプだってわかってる。


……それでいいって、言ってくれた人もいるんだから。
両手のリストバンドと左足のアンクレットを見て、眼を伏せる。



こんな些細なことで苛立ってたら駄目だってわかってるけど、オレって直情型だしねェ。次は斬術だから、そこで発散しよう。
まぁ、アイツに近づかないでおこう。なんかスッゲェ勘に触る。















SIDE日番谷

「なんだよ、あいつ…」

鬼道はからっきしだった癖に、初めての斬術の実技で教官を倒しやがった。しかも一撃で。
打ち込みが速すぎて、竹刀がしなっていた。初めて刀を握った奴の動きではない。

「く、黒崎…お前」
「すみません。つい」

何がついなんだ?

「手加減が足りなかったみたいです」

こいつ、本当に女か?
黒崎が教官にぺこりと頭を下げると、教官は唖然と口を開けたまま固まってしまった。

「オイ、黒崎」

教官があれでは授業が進まない。退屈になって俺は黒崎に声をかけた。

「ん……なんだよ」

俺だと確認した途端、かなりイヤそうに眉間にシワを寄せる。

「俺と試合しないか」

横に置いていた竹刀を手に取り立ち上がると、黒崎は驚いたように眼を見開く。

「今のを見て言ってんの?」

ちらりと視線を教官に向け、黒崎は確認してくる。
あの踏み出す足、打ち込みの仕方、こいつの斬術は実戦向きの斬術だった。手合わせすれば、もっと俺の糧になる。

「ああ」
「ふ〜ん…上等。天才様の腕前を拝見しようか」



俺が頷けば、黒崎は好戦的に目を細め、竹刀を両手で握り締める。







「「……」」

威圧感。
数秒が数時間に感じるほどの張り詰めた、耳が痛くなるような静かな空間。
髪の毛一本にまで気を配り、動きを見逃さないように神経を張り詰める。
目を反らすな。反らせばその時が最後だ。




ふっと姿が消えたかと思うと、右肩に冷たさを感じる。

「くっ!」

右への打ち込みを間一髪で竹刀で受け、すぐに流して下から打ち込む。
しかし竹刀が当たるより速く黒崎の姿は消え、次は背後に風が走る。先程見た黒崎の足捌きを思い出し、真似て背後からの一撃を避けた。すると黒崎の動きがぴたりと止まり、俺を不思議そうに見る。




「少し驚いた」
「何がだよ」
「自分の技術がこんな簡単に奪われたから…面白い」







「っ!」

いつ動いたのか、いつ打ち込まれたのか、全くわからないまま、俺の意識は途切れた。







目を覚ましたのは、それから二時間後。




「…ん……重たい?」

薬品の臭いでそこが救護室だとわかった。だが、体が重い。いや、体というか腹の辺りが重い。

「……黒崎?」
「起きたみたいね、日番谷君」

茜色の頭が、人を枕にして眠っていた。

「黒崎さん、心配してずっと付いてたのよ」
「心配って…」

気絶するくらい思いっきり打ち込んだの、こいつじゃねぇかよ。
教員の言葉に困惑しつつも、その茜色から目を放せない。


「ふふ、私は少し用があるからあとは宜しくね」
「な、ちょっ!」
「ゔぅ……」


教員は鍵を俺に渡し、ひらひらと手を振って出ていく。俺は慌てて起き上がろうとしたが、黒崎の不満そうなうめき声に動きを止めてしまう。


「……なんだよ」

動いたせいで顔が見えるようになった。そのあまりにも幸せそうな寝顔に、さらに動けなくなる。

「さっさと起こせばいいじゃねぇか…」

普通なら叩き起こして寮に帰って飯を食って


…なんで、黒崎を起こさないように救護室で寝てんだよ、俺。



「……日番谷…おまえ、強いな……」
「な?!」

急に自分の名前が出て、俺は黒崎の顔をまじまじと見る。だが、黒崎は変わらず眠ったまま。

「…寝言か」

名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねた。その理由は知らない。

「……寝るか」

起きるのを待つくらいなら、起こされる方がマシだ。
俺は心臓のいつもより速い鼓動を聞きながら、眠りに落ちていった。





(お題配布:コ・コ・コ様)




2006/3/23



あきゅろす。
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