愛執
昇進が決まったその日、僕は一番に一護の元へ向かった。
君に、僕の隣へ来てもらうために。
愛執
「一護」
「惣右介、何か用?」
声をかけるが、一護は振り向くことなく返事をする。
机の上に積み上げられた書類の処理が忙しいのはわかるけど、少し苛立つ。
「一護に頼みたいことがあるんだ」
「事務はこれ以上増やされても無理だよ」
「いや…違う」
真剣に言ったのだが、一護はさらりと見当違いな返答をする。僕は少しだけ苦笑いをし、一息吐いて否定した。
「惣右介?」
やっと振り向いてくれた一護は、真っ直ぐに僕を見上げる。
「隊長に昇進したんだ」
「へぇ……あ、おめでとう。また先を越されたね」
驚いて目を見開いた一護は、一度目を閉じて考え込む。整理が着いたのか、ゆっくりと目を開けると笑顔で祝いの言葉を贈ってくれた。
「ありがとう」
他の奴等からの言葉は何も感じなかったが、一護からの「おめでとう」には心が温かくなる。素直に僕は礼を言う。
「で、藍染隊長が私に頼み事って?」
隊長に殊更力を入れた言葉に、僕ははっとする。
ここに、君の元に来た理由を忘れそうだった自分に少し笑える。
「藍ぜ」
「一護」
「何?」
何も言わない僕を不審に思ったのか、一護は眉を潜める。気付いた僕は本題を切り出した。
「僕の副官になってもらいたいんだ」
「……いやいや無理だよ。私は十三番隊の副隊長だし」
口を開けて再度ぽかんとした一護は、間を置き顔の前で手をパタパタと横に振る。
「異動してもらいたい」
「いや、でも…総隊長は何て言ったんだ?総隊長が良いと言えば、まぁいいけど」
僕が諦めずに言えば、一護は恩師でもあり、上司の老人の名を出す。なぜか一護は総隊長のことをとても信頼しているらしい。
「総隊長が良いと言えば良いんだね?」
「うん」
こくりと頷いたのを確認し、僕は踵をかえした。
「お願いに行ってくるよ」
まさか、断られるなんて思ってもみなかった。
『黒崎を十三番隊から動かすことは無理じゃ。浮竹の代理が出来るのは、今の時点ではあやつぐらいじゃからのぅ…藍染、諦めぃ』
先程の出来事を思い出してしまい、苛立ちから爪を噛む。
「浮竹十四郎…」
ガリッと強く噛み過ぎ、皮膚の破けた指から血が流れる。
「アイツが…」
入隊から僕は五番隊、一護は十三番隊。そう、浮竹のいる十三番隊…。
「アイツが一護を?」
京楽と浮竹は山本のお気に入りだ。
浮竹の頼みなら、浮竹が一護を傍に置いておくことを望んだなら、聞くのではないか?
「一護」
君が隣にいない。
これでは、なんのために隊長になったのかわからない。
「君は望んでくれないのか?」
僕の隣に来ることを。
一護が望んでくれれば、総隊長も首を縦に振るだろうに。
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「……藍染隊長」
「惣右介で構わないよ」
人が居なくなるといつもこうだ。
後ろから腰に手を回し、まるで甘えたがりの子どものように、抱き付いて離れなくなる。
「惣右介、仕事はどうした。副隊長のギンが困っているぞ」
「僕の仕事は終わらせた。それに、ギンなら僕より早くにサボって居なくなっていたよ」
その返事に頭が痛くなった。仕事を終わらせたのは偉いしスゴイと思うが、隊長より早くにサボってしまう副官にそれを容認して放っておく隊長。ていうか、二人ともいなかったら隊員達が困るだろう?!
「隊舎に戻れ」
「断る」
筆を止めて机の上に置き、回された手の甲を抓りながら言うと、手は離れるが即答で否定される。
「一護が副隊長になってくれるなら、僕は喜んで戻るよ」
振り返った私の目の前、あと数センチの距離で微笑む。
「何度も言うがムリ…ッ!」
またかと目を細めると、数センチの距離が一気に縮まる。
触れ合った唇。
驚いて固まってしまった私の、唇の間からぬるりと入り込んだ舌は口内を蹂躙するように動かされる。
久しぶりの口付け、ぴりぴりとした微弱な快感に流されそうになる。
「っぅン…ぅ…ヤメッ!」
背中が机に当たりカタンとなった音に、場所を思い出して羞恥心が沸き上がる。思わず振り上げた手が、パンッと音がなるくらい強く惣右介の頬を叩いた。
「あ…ゴメっ」
「……また、来るよ」
叩いてしまった頬は赤く腫れ、惣右介は無表情になり軽く手を頬に当てて私から離れる。
扉を閉ざすわずかな隙間から見えた惣右介は、泣きそうな、しかし憎悪を強く持つ瞳をしていたように感じた。ほんの一瞬だから、確信は持てないが…。
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「藍…ぜっ…たいちょ…?」
鏡花水月をこんな塵で汚すのに気が引け、男自身の斬魄刀を奪い胸を貫いてみると、僕の霊圧に耐えきれなかったのか斬魄刀はボロボロと崩れていく。
一思いに死ねなかった名前も知らない塵は、信じられないものを見ているような目で僕を見上げた。
「……」
無言で見下ろせば、もがき苦しむ醜い姿。縋るような瞳は、何故?と問い掛けるようだ。
「貴様程度の塵が、一護に触れるからだ」
転びそうになった一護を男が抱き留める姿を偶然見かけてしまった。
あの白く柔かな肌に、萱草色のしっとりとした髪に僕以外の、それもこんな塵が触れた。そう思った瞬間、殺意が起こった。
「虚の餌にもならない」
動かなくなった俯せの身体を蹴り、その身体を仰向けにする。胸からは血がだくだくと溢れ出し、大地を染める。
「ほんまに恐いなァ」
「…終わったのか?」
気配を感じてすぐに、独り言のような呟きが聞こえる。振り返れば、副官となったギンが、足元の男を相変わらず掴み所のない笑みのまま見ていた。
「終わりましたよ。ほんまは雑魚なんですから」
鏡花水月で大虚に見せた、ただの虚。
つまらなかったとぼやくギンに、僕は肉塊を蹴り飛ばした。
「僕もつまらなかったさ」
抵抗の一つ位してくれれば、もっと苦しめられたものを…弱すぎてさっさと殺ってしまった。
「そないに弱かったん?ソレ、一応五席ですよ?」
「ああ…そうだったね」
これで五席。やはりくだらない。
「……」
この程度が大手を振って闊歩する、この世界は不安定で脆い。
こんな世界が存続する意味がどこにある?
「藍染隊長、この霊圧…」
空を見上げ、考えこんでいた僕の中に入り込む強い霊圧、ギンも遅れながら気付いたそれに、僕は目をわずかに細める。
「惣右介!」
「…一護?」
かけられた愛しい声に、たった今気付いたという風に返事をする。
「っう…!」
「いちッ!」
一護の感覚が、匂いと色で血に気付く。顔を青ざめさせ、泣きそうに歪めて僕の足元の男を抱きしめた。
白い肌が汚れるのを気にせず、血が死覇装につくことを構わずしっかりと抱きしめる一護に、それ以上に抱きしめられている男に、苛立つ。
傷つく君が見たくなくて、嘘を着こうと思ったのに。
「惣右介?!」
無理矢理引き剥がし、一護から離れたソレに鬼道で火を着ける。慌てる一護を腕の中に押さえ込み、完全に灰になったソレが風に飛ばされるのを見送った。
「燃やしてしもうたら面倒なことになりますよ」
「……」
ギンの言葉に、一護は僕を見上げる。
わかっている癖に、その瞳は違うと言ってくれと強く訴えるから、僕は微笑み、一護の頬に着いた汚れを羽織で拭き取る。
傷つけたくないと思う半面で、自覚の無い君を酷く責めたくなる。
「一護のせいだよ」
その行為で気を抜いた所を見計らい、表情を変えずに言う。
琥珀の瞳は大きく見開かれ、涙が頬を伝う。
「君が僕を乱すからだ。君が他の男に触れさせるから、だから、みんな死ぬんだ」
「なっ、」
「ギン、後は任せるよ」
わがままのような理由に口を開いた一護を遮り、ギンに声をかける。
やれやれとため息を着きながらも頷いたギンに、僕は一護を抱き上げた。
「下ろせ!」
非難の声を気にすることなく、僕は一護を連れ去る。
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「こんなごまかし方…最低だ」
「ごまかしたつもりは無いよ」
発せられた綺麗な声は掠れてしまっていた。それが少し残念な気がした。
シーツ一枚だけを纏っている一護は、指一本も動かせないくらいにぐったりと身を横たえている。
頬には涙のあと。瞳はまだ涙を滲ませたまま。
「なんで…」
院生の時と同じ、君は理由を欲しがる。
理由無き死をひどく悼む。
「一護が僕のものになってくれないからだ」
僕の答えは同じ。ずっと、それが唯一の理由。
「そんなことで…ッ!」
無理矢理、何度も何度も貫かれ、揺さ振られた身体は一護の叫びにすら悲鳴を上げる。
「ほら、無理をしてはいけないよ」
自分でしておきながら労りの言葉を発し、僕は起きあがろうとした一護の肩を抑えて布団に戻す。
「お前みたいなやつ、大っ嫌いだ…」
押さえ込んだ一護は歯を食いしばり、酷くしてしまった原因の言葉をまた言ってしまう。
それは僕を乱す最大の言霊。
「っア!やだ、もうムリだ…ッ」
明らかな肉欲の意味を含んだ首元への口付け。
押さえられた一護は、それでも弱々しい動きで逃げようとする。
「逃がさない」
一護は僕のものだ。
僕を嫌うなんて許さない。
「あ、ヤだぁ…」
下半身はいまだ濡れていて、容易に指を受け入れる。その間にも、一護が僕のものだと言うように、白い首元に無数の朱の華を咲かせる。
「一護、呼んで…」
「あっ…そ、う…すけ」
今更、僕を見放すなんて絶対にさせないよ、一護。
気に入った華を手折らないほど、僕は優しい男じゃない。
まして、一度手に入れた華を捨てるような愚かな男ではないのだから。
END
懺悔
不発です…ι
場面転換が多くて、読みにくかったらすみません。
最後の方ですが、あの程度は微裏にもならないと私は思っていますが、不快だったらすみません。
藍染様がまた、死神殺していてすみません。
百瀬様
死神編ですが、他の死神が出て来てなくてごめんなさいm(__)m
このようなもので宜しければ、持ち帰りOKです。
いつかリベンジを…!(誓)
2006/3/9
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