14.ごめんね(ギン→一)

(甘いやろうな…)

ぼんやりと窓の外を眺め、萱草色の少女を思い浮かべた。


(目も甘そうや…)

光加減で綺麗な琥珀色になる瞳。

思い浮かべるだけで、ゆるやかに口元が孤を描く。



「隊長?」
「……なんや、イヅルおったんか」


「?今来たんですけど?」


珍しく逃げ出していないくせに仕事をしていないから、イヅルは不審そうに眉を潜めてボクを見る。

「逃げていないのは嬉しいですが、仕事をしてくれませんか?」
「イヤやな…心読まんといて」

わざとらしく陽気に笑い、窓から視線を外す。


「なあイヅル」

「…何ですか?」

休憩はダメですよ、と付け足す副官に、苦笑いをひとつ。

「ちゃうよ……ボクは一護ちゃんの捜索が進展したかどうかを聞きたいんや」
「!!!!!」
「そないに驚かんでもなァ…」

まさか本当に気付いてない思とったんかねェ…。

「いつからお気づきに…」
「初めからや。多分隊長さん等皆知っとるよ」
「…………」

心底驚いたって顔して…可哀相になァ

「ほんまに…どこ行ってしもうたんやろ、一護ちゃん」

明るくて美味しそうな橙。
みーんなしてキミを探しとるんや…



「会いたいなァ…」

小さく呟き、外を眺めた。


「隊長…すみませんでした!」
「………」

イヅルは急に姿勢を正し、床に頭が付くような勢いで土下座をした。
予想はしていたけど、実際やられるとびっくりするもんやな…。
思わず言葉を失ったボクに気付かず、言葉を続ける。

「総隊長の御命令とは云え、隊長方を疑うなんて…」
「ええよ。総隊長の命令やったらしゃあないし…」

謝罪の言葉を途中で切ったボクに、イヅルは困ったように顔を上げる。

「しかし…!」

(かかった…)

なおも食い下がって来たイヅルに、気付かれないようにボクは笑みを深めた。

「しゃあないなァ……それやったら、これから何か進展があったらボクにも教えてくれへんか?ボクも一護ちゃんが心配なんよ」
「は…はい!」

窓を眺めて言うボクに、イヅルは嬉しそうに返事をして、部屋から出ていった。

(ほんまに素直やな…)


「一護ちゃん…」



寂しい思いをしているだろう少女の名を、そっと口にする。





「ボクがすぐに行ったるから、泣かんと待っとりぃ…」















「やっぱり泣いとったんや」
「ギ、ン…」

室内とは思えない明るさ、そして景観。


「悪い子や…また、そんなことして」
「っう!」


色とりどりの花々の中に座る萱草色の少女。
その白い爪に着く赤い血。

「その紐は素手で切れるものやない。一護ちゃんのための特注品なんやから…」

指を口に含み、舌で傷口を舐める。キュッとキツく目を閉ざし、ボクをかたくなに拒む。




「キミのための部屋、キミのための紐(鎖)」


髪をなで、キツく閉ざされた瞼を舐める。
ぴくりと震える体を抱き上げ、ぽつんとある白いベッドに座らせた。







「ギン、帰して…」

ぽろぽろと溢れる涙を指で掬い、そんな一護を困ったように見つめる。

「それだけはイヤや…」

ボクの言葉に、一護はさらに悲しそうに顔を歪めた。

「ボクは一護ちゃんが好きや、愛しとる。傷ついてほしいないし、…誰にも見せとうない」


「私は…!」
「言わんといて!」
「ッ!」


キツく抱きしめれば、耳の後ろからキミはまた、アイツの名前を言おうとする。

もう二度と聞きたくないその言葉に、ボクは無理矢理キミの唇を塞ぐ。



見開かれた瞳。
胸を押すように当てられた手。


「っう…、ふぅ…っ」


息すら奪うように深く、長い口付けに、


瞳は閉ざされ
また涙を落とし、

押し放そうとした手は
力無く垂れ、


キミは抵抗しなくなる。





それが哀れみでも構わない




「一護ちゃんだけが欲しいんや」




その身も心も




キミの全てが






「………ごめんなァ…」






いつか、
きっとボクはキミを殺す





「好きになって、


愛してしもうて……





ごめんなァ」






キミが愛したアイツに、髪の毛一本たりともあげないボクを、



キミの全てを奪うボクを、





キミは……






十四.ごめんね




後書き

ギンちゃん壊しちゃった(笑)
そして残る謎のアイツ……誰かなぁ?




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