12.駆け引き(ギン一)

これは鬼ごっこ



ボクが君に触れれば
次は君が鬼





君がボクに触れたら
次はボクが鬼









追い掛けて

追い掛けられ










さぁて

どちらが捕まった?


「…そろそろやね」

「何がですか?」


ここ数日珍しく仕事をしている隊長が呟いた。
それに、吉良は井深しげに尋ねる。




「もうすぐなんや♪」

答える気はないらしい。
何かを含んだ笑顔でちらりと吉良を見て、すぐに書類に視線を戻す。

いつもに増して機嫌のいい隊長は、書類に筆を走らせながら鼻歌を歌う。

「イヅル、コレで最後や」

山が消え、最後の書類が手渡された。
受け取った吉良は提出するために席を立つ。
期限の遅れなかった書類を提出したのは幾年ぶりだろうか。



「…一護ちゃん、そろそろ気付いたやろ?」

引出しから取り出した一冊の本。
嬉しそうにそれを眺め、市丸は気配を探った。



すぐにわかる。


隠されることのない
その独特の霊圧。









「ギン!!」

壁に当たり跳ねかえるくらい勢いよく戸が開けられた。

続いて届く、少女の声。


「どないしたん、一護ちゃん?」

わざと白々しく聞けば、真っ赤になる。



「おま…っ、お前だろう!俺の日記帳盗んだの!!」


真っ赤な顔で、怒鳴り声を上げる。
それにさえ、嬉しくなる。


「遅かったなぁ、もっと早く気付くと思ったんに…」

わざと残した痕跡

ボクのところに来てと



そう思って、こっそり彼女の日記帳を拝借した。

だって、ボクばっかり逢いに行くのっつズルイやん?












でも、それが思わぬ幸せを呼んだ。


「な、中…見てないよな?」

見てないと言ってくれと、その瞳が語る。
不安そうに、恥ずかしそうに身体を縮込ませる。

「どうやろうな〜?」


ボクは何度も言った。

押して、押して、押し続けた。


次は君の番


ボクは身体を引く。
君の本音を引き出して見せる。


「何書いてあったん?」

「っう〜〜ぅ…」


言わないと言っちゃおうか?

君の本音





日記という閉ざされた世界に隠されていた本音。









偶然見つけた幸せのカケラ。















確信犯の笑みで俺を見る市丸。

日記を見られたのだとわかってしまい、沸き起こる不安感。








ずっと好きだった





始めて見た瞬間囚われた。
悲しい、笑い方を忘れた笑顔。








次に会ったとき、好きだと言われた。








これは遊び?
それとも気紛れ?


信じてもいいのだろうか?







だから


引いて、引いて、引き続けて…





それでも好きと言ってくれるなら、信じよう…




そう思っていた。


「嫌いになった?それとも飽きた?」


平然とした様子に、市丸の思いが変わったと感じた。




手に入れてしまえば、もういらない?

あぁ、やっぱり遊びだったんだ。







「もういいよ。……返してくれ」

市丸の手の中にある日記を取ろうとする。



俺は、負けたんだ。




自分の中で決めた賭けに。

「なにがもうえぇの?」

伸ばした手はあっさりと押さえられ、見上げればすぐそばに市丸の顔。








「もう、いいんだよ…」


顔を背けて、唇を噛む。まだ、飽きた俺に何の用があるという?









どこまで、俺を翻弄する。










「ボク、いっちゃんのこと好きやよ?」




市丸の手が頬に触れて、見えたのは拗ねたような、始めて見たときと同じ、悲しい笑顔。









「一護が好きや」







捨てないでと、
声が聞こえた。









「何で…なんで、お前が捨てるんだろう!お前が……ッ、捨てられるのは俺だろう?!」


わからない。

何が言いたい?
何を考え、
何を思っている?!









「捨てへんよ…。だって、ボクは一護が好きなんやから」








本当に?

信じてもいいの?









「泣かんといて」


ぽろぽろと涙が止まらない。





「よかった…嬉しいよぉ〜」

泣き出した一護に情けなくもうろたえてしまう。



まさかこんな風に泣いてしまうなんて…考えんだわ。





でも、



「ボクも嬉しい」






「市丸も…?」




顔を上げた一護に、頷く。







君に会って、本当に嬉しいと、幸せと感じることが出来た。




この笑顔は君のおかげ



君がいたから笑顔を知った。









「だって、ボクは一護が好きやから」










「…俺も、市丸が好き」










やっと聞けた言葉に、嬉しすぎて一護を抱きしめた。


胸に納まった一護がおずおずと背中に腕を回す。








幸せやと、心から思う。








押して押して、引いて



駆引きに勝ち負けはなかったけど




気持ち的には勝った感じ?


十二.駆け引き


〜後書き〜
一度間違えて消えて…
眠い目を擦りながら書き直して…またやっちまって…
やっと書き直し。
かなり短くなった…
片想いというよりラブラブ…
ギン一好きなのに…ギンの喋り方が苦手。そして勝手に動く…(泣)
精進します。




あきゅろす。
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