霊王


頬を絹糸のような髪が撫でていく。

「一護ちゃん…」

渦は未だ消えておらず、その中心地である此処に居るのはギンを除いて二人。

黒崎一護と井上織姫

ふわりと揺れる長い髪を、誰のものかと考えるならば織姫と思うのが普通かもしれない。

だけど、ギンは違う。

茜色の長い髪も、細い腰と小さな肩も、強い光を秘めた琥珀の瞳も

全てが一護のものだと知っている。

昔はこちらでいることの方が多かった。

初めて会った時も
最後に会った時も

「生きてるみたいだな、ギン」

一護の声を合図に、霊力の渦が消え去った。



「…黒崎一護?」

渦が消え去り、藍染は三人の姿を見つけ目を細める。

ギンと織姫の姿はすぐに見つけられたけれど、ただ一人黒崎一護の姿は見つけられず、ギンの横には茜色の髪の少女。

その色彩と感じる霊圧の質に確かめるように名を口にする。

「そうだ、私は《一護》だ」

一護は藍染の言葉に頷く。
隠す必要などない。


「織姫の力を奪ったか」

藍染は一護から感じる織姫の力とその変化に自らの内に答えを出せば、一護は目を伏せる。

「預けてあった私の力の一部を返してもらっただけだ」

盾舜六花の力は織姫のものであり、これから少し訓練をすれば再度使う事も出来るようになるだろう。

一護と言う無限の供給源をなくした以上、今までのように際限なく使う事は不可能になるだけで。


「ならばそれが本来の君と言う事か」
「そうだ」

一護のはっきりとした返答に藍染は微笑を浮かべる。

「ぜひ手に入れたいな」
「あかんよ。一護はボクの、ボクだけのものや」

そして一護に近づこうとする藍染に、ギンは一護を抱き寄せて藍染を睨みつける。

「邪魔をするなら始末するだけだよ、ギン」
「どっちにしろボクはアンタを殺すだけや、藍染」

裏切りは予測できていたが、ここまで真正面から宣言するとは思っていなかった藍染が足を止めれば、その間に激昂した東仙がギンに向かっていく。


「藍染様を裏切るつもりか!!」
「ギン!」
「裏切るやなんて人聞きが悪いなぁ」

振り上げられた刃にギンは一護を後ろに下げる。
その行為に一護は怒ったように声を荒げるが、ギンは気にすることなく東仙を神鎗で弾きとばす。

「ギン、私は…」
「一護ちゃん、ムリしたらあかんよ」

文句を言おうとする一護の言葉を遮り、ギンはにっこり笑う。

「裏切り以外のなんだと言いたいんだ、ギン」
「そやなぁ、初めから仲間やない?」
「貴様!!」
「なしてボクの命を狙うやつと仲間にならなあかんのや」

ギンの首をかしげながらの言葉に完全に頭に血の上った東仙がギンに向かって駆け出す。
そのため、ギンが最後に呟いた言葉は藍染にだけ届いた。

「ギンを怪我させるわけにはいかない」
「一護ちゃん!」

相変わらず猪突猛進やなぁと神鎗を構えるが、その横をすっと抜けて一護が東仙に対峙する。

「これだけは譲れない」

ギンの制止の声に逆らい、一護は東仙の攻撃を避けて反撃する。

「《一護》はギンを護ると決めたのだから」

東仙の身体が落ちて一護はギンの傍へと戻ると、破面達の殺気が強まる。

「まさか…」

ただ一人、東仙が倒れた事に何の反応も見せない藍染は自らの思考に首を振る。

「どないしたんですか、藍染はん?」

にィっと笑い、ギンは藍染を見る。

「霊王だとでも、言うつもりか…」

ギンのその表情に藍染は現実味がなく信じがたいそれを、ついに口に出す。

「ご名答、さすがやねぇ」

ケラケラ笑い、ギンは手を叩く。
藍染の言葉とギンの肯定に破面は動揺する。

「そんな藍染はんに最後やから教えたるわ」
「ギン」

ギンを咎めるように呼んだ一護だが、にっこりと笑うギンに悪い癖だと諦めるように溜息をついた。

「霊王の正統な後継者はボクやなくて一護や。せやけど一護は同時に霊王にはなれない【与えし者】やった」
「…だから、私は霊王になれる者を探し出さなければならなかった。そして、ギンを見つけた」

言葉が途切れたと思えば、一護をじっと見つめるギンの瞳。
その意を汲み取り一護は言葉を接ぐ。

「藍染はんの失敗は王鍵のことだけに気をとられ、その先には誰も居ない事に気付かなかった事。ボクのことに気付かへんだ事」
「私という存在に気付かなかった事」

「ボクと」
「私を」

「「揃えてしまった事」」


ギンが神鎗を構え、一護がその手を添える。

その解放で虚夜宮に強大な霊圧が吹き上げた。

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