第一章・狐&狸B

「それじゃあおやすみな、ソウ、ギン」

籠に藍染とギンは共に入れられ、少女は電気を消してベッドに入った。

『…なぁ、なんでボクら現世(こっち)の食物食べられるん?』

食べてから言うのも何やおかしゅう思うけど、あまりに普通に食べられてしまうのでこう、時間が経ってからやないと疑問が出てこなかった。

『…彼女が……いや、技術開発局に聞かなければわからないだろう』

普通の人間でいるにはおかしいくらいの霊力を持つ少女を見て、すぐに目を逸らした。いくら霊力が強くても彼女はただの人間だ。何ができるという…どうせ、技術開発局がなにかしたに違いないさ。

『……考えるのは苦手や』

ごちゃごちゃと色々考えていると頭が痛くなってきて、ボクは眠っている少女を見る。

『……』
『ギン?』

急に立ち上がったギンがスタスタとベッドの方に向かい出したので、僕は目を細めて声をかけると、ニヤッと笑いベッドの上に飛び乗った。

『狐でおるんやったらそれを活かさへん手はないやん』

あげく、ベッドの中に潜り込んだのだ。

『っ!』

先を越された!と気付くのが遅かったことを悔やみ、僕は一度舌打ちをして(したつもり)枕元に丸まった。


「お前ら…」

少しすると呆れたような声が少女から出され、ボクは寝たふりをして少女の胸に擦り寄る。

「しかたねぇか……」

小さなため息の後、少女は僕の頭を撫でてまた眠りに落ちて行った。



「ん……」

小さな寝息に目を覚ませば、少女が少し熱いのか身体をひねって布団から出ようとしていた。

そういえば、妙に着込んでいたな。
そう思いそっと身体を起こす。

『確かに季節的には寒いけど、着込みすぎだよ…』

よいしょっと布団を一枚取除いてあげようとすれば、グッとなにかを踏みつけてしまう。
もちろん気をつけていた少女であるはずもなく、布団の下からはギャッと小さな叫び声。
少女が起きたらどうするつもりだ、あのバカは…

ちなみに、罪悪感など欠片も無い。


『何するんやこのオッサン狸!』
『五月蝿いよ。静かにしないと彼女が起きてしまうじゃないか』

布団から這いずって現れた狐に、尻尾でべしりと口を閉ざさせる。

『謝らんかい!』
『そんなところにいたお前が悪い』

尻尾をどかし変わらずギャンギャン吼えるギンに溜息をつけば、ギンの逆上は悪化するばかり。

『ほんまムカつくわ、このオッサン!』
『君に好かれたいとは微塵も思ってないから気にしないよ』

どたばたと、二人の喧騒は酷くなる一方、布団の中の少女は暑さにじたばたとする。



結果

『『!!!!』』

ズルッ

ボフッ


布団は二匹を巻き込み床へと落ちたのだった。
















「うぅー…寒ッ………何でぇ…」

ついつい喧嘩疲れで寝てしまったらしく、布一枚向こうで少女が目を覚ましてしまった。
今は寝ぼけているようだが、もう少しすれば意識もはっきりして今の状況を把握するだろう。

「……ア?」

さてどうしようかと考えていると、馬鹿な狐が目を覚ましたらしく体をもぞりと起こした。
見逃してくれればなと思ったが、少女はしっかりと見ていたらしく小さく声を出す。

『ギン、君のせいで彼女に怒られるじゃないか』
『…はぁ?オッサンいきなり何言うとるん?』

起きたばかりのせいか状況を把握出来ないダメ狐にため息をつき、どうごまかすか、もしくは全責任をどうやってギンに押し付けるかを藍染は頭をフル回転させて考える。

だが、そんな猶予もないと言わんばかりに少女はベッドから降りてしまう。

「原因はお前らか…」

布団が持ち上げられ、藍染は咄嗟に寝たふりをし、ギンは反射的にその布団にしがみついた。

『馬鹿が…』

普段の寝汚さが見事に現れてしまったギンに、少女が呆れたような視線を向けた。
ギンがそれを感じとり藍染を睨めば、藍染は動物の聴覚だからこそ聞き取れるような声音で呟く。

『ボクのせいやないよ、あの狸なんや!……狸寝入りなんかしおってあんたも同罪やん!』
「いや、何言いたいのかさっぱりわかんねぇけど……ソウ?」

首根っこを掴み上げられたギンは必死に少女に弁解するが、少女は何を言っているかわからないから首を傾げてため息を着く。ギンはイライラとし、このままやとあかんと思い視線を藍染に移し罵声を投げつける。



「狸寝入りか…」

『ええ気味やなぁ藍染隊長』
『くっ…ギン、お前…』

ギンの息が切れるんじゃないかという罵声の一部に不覚にも反応してしまい、寝たふりをしていたことが少女に気付かれてしまった。
ギンとは逆の手で首根っこを掴み上げられると、ギンが愉快だと言わんばかりの笑い声を上げ、藍染はキッと睨みつける。


「ったく、オレが風邪をひいたらどうしてくれるんだよ」

『っと!』
『危ない危ない…』

睨み返してきたギンにさらに苛立ち、睨み合っていると、少女は一つため息を着いてパッと手を放した。
突然のことに驚きながらも、藍染とギンはくるりと体勢を整えて着地し、ほっと一息漏らした。

『呆れられたか』
『しもた…このままやと路上生活再びや…』

少女を見上げれば、二人を見る瞳には明らかな呆れの色。
二人してこれは捨てられるな…と思った。








「……今夜も同じことをしたら捨てるからな!」

『へ?』
『……』

じっと視線がぶつかったまま数分間の沈黙。少女は一度目を閉じて天井を見上げぽつりと甘いなと呟き、ボクらにデコピンを一回ずつして苦笑いを見せる。
隣では藍染が同じように目を丸くして少女を見上げ、その少女はやれやれと呟いて立ち上がった。

『お人好しやな』
『ああ…』

疑いを知らない人間ほど愚かなものはないと藍染は今まで、いや今でも思っているが、先ほど見せた少女の苦笑いが酷く心地よかった。

『この子みたいなんが普通やったら、ボク、この世界大好きになれるんになぁ』

一片のシミすら感じさせない澄み切った心。
こんな動物の霊にすら、彼女は優しい。

『彼女は異端だよ』

こんなぬるま湯のように温かく何時までも浸かっていたくなるような人間、滅多にいない。









『『あ』』

眩しいものを見るような眼差しでしんみりとしていた二人の目の前で、少女は遠慮なく服を脱ぎ出した。

『……やっぱええ身体しとるなぁ』
『しかしもう少し恥じらいを持ってもいいと思うんだが…』

クローゼットからだした制服に着替え出した少女に、二人は先ほどまでのシリアスムードを完全に捨てて各々の感想を口にする。

──視線は少女に向けたまま。


「………」

さすがに穴が開きそうなくらいに真っ直ぐに見られていれば変だと思ったのか、少女は振返り目を細める。


「腹が減ったのか?」

『天然や』
『今までどんな生活をしていたのかとても気になるよ』
『なんでや?』
『あそこまであからさまな視線に違和感を覚えないということは、今まで異性とそういうことになったことが無いということだろう』

『こんな上玉やのに?』

幼いといえば幼いが、中学生ともなれば色気づいた男もいるだろう。
たしかに普段は男のような恰好をしていたが、制服はスカートだ。あのすらりとした足が惜しみもなくさらけ出されている。

『だから気になるんじゃないか』

そうでなければ気になる何て言わないよ。
馬鹿狐じゃあるまいし。

僕たちが話をしているうちに机でごそごそと何かしていた少女は、僕たちの前にパンを置く。

『まあ、空腹は空腹だね』
『いただきまーす!』

食い意地の張った狐だな。
出された途端食べ始めたギンを横目に、藍染もまたパンを食べ始める。

「オレも食ってくるか」

少女はしばらくこちらを見ていたが、くうぅ…とお腹が鳴り、部屋から出ていったのだった。






第一章
SIDE狐&狸完



Side一護

第二章-Side尸魂界-




あきゅろす。
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