ヘアカットの日

【ヘアカットの日】




部屋に入り目に入ってきた光景に藍染は慌てて走り寄る。

「な、何してるんですか!!」
「うわっ!?」

隊首室の中には隊長が一人、髪を軽く持ち上げて斬魄刀を後ろ首に当てていた。
藍染は髪を切ってしまわないように斬魄刀をそっと抜き取り、驚いたのか目をぱちくりとしている一護をキツク睨み付けた。


「何を考えているんですか貴女は!!」
「いや、何って…」

斬魄刀を床の上に置き何時もとはぜんぜん違う藍染のあまりの剣幕に一護はたじろぎ、なぜか本気で怒っていることを理解する。

「辛いことがあるなら相談してください、こんなこと…」
「?いや、辛いこととか別に」
「僕はそんなに頼りないですか?!」
「そんなことは…」

藍染に両手を優しく包み込むように握られ、心配の色が浮かんだ瞳でじっと見つめられる。一護は心配されていることを理解したが、正直意味がわからない。
一護にはそれほど辛いこともなければ、もちろん藍染に頼らなければならないこともない。しかし否定すればするほど藍染の瞳はキツク、悲しそうに細められ、握り締めている手が小さく震える。
一護はどうしたものかと藍染から目をそらさずに先ほどの自分の様子を思い返す。
藍染が戻ってきたとき、私は…

「あ」
「隊長?」

まさか…と一護はふと思い浮かんだ言葉に小さく声を漏らす。藍染は気の抜けた声をあげた一護を訝しげに見て、次の反応を待つ。
一護はちらりと横に置かれた斬魄刀を見、次に視界に入り込んだ橙を顔を振って避けた。


「惣右介、私は自害する気なんてないぞ」



「…しかし」
「やっぱりそうなんだな?」

髪に当てた斬魄刀は後ろから見れば首に当てているようにも見える。



誤解を招くには十分な要素だ。

「ではなぜ」
「何故って…あのな、私の髪が伸びたと思わないか?」
「髪ですか?」

藍染は一護の腰にまで届いた髪を見る。
そういえば、だいぶ長くなったように見える。


「あ」
「わかったか?」

先ほどの一護のように気の抜けた声を出した藍染に、ふぅっと一護は軽く息をついた。
髪の一房を掴み上げ、手入れが行き届かずに傷んだ毛先を見て少し憂鬱になる。

「髪を切ろうとしていたのですか?」
「うん」

藍染は頭の中で状況を整理し終え、自分の勘違いに気づけば恥ずかしくて、照れながら尋ねれば一護はこくんと頷く。

「…切るんですか?」

藍染はあらためて一護の髪を眺め、嫌そうに眉間に皺を寄せて呟く。

「先ほど当てていたのはずいぶん高い位置だったように思えたのですけど」
「あぁ、こまめに切るのがめんどくさ」
「僕は反対です」

髪を首の位置で一纏めにして持ち上げた一護に、藍染はその手を掴み髪を離させる。不思議に思い後ろを向いた一護に藍染は爽やかに笑って見せ、机の棚の中に入れられていたはさみを取り出す。

「そんなところに…」

探し回っていたはさみをあっさりと取り出した藍染に一護は負けた…と首部を下げて悔しそうにした。

「隊長、頭を上げてください」
「ん…何?」
「僕が切って差し上げますから、余り切らないで下さい」

頭を上げると髪に櫛が通され、一護はぴたりと動きを止める。藍染は一護の髪を掴み、一護に見えないように愛しげに口付けた。

「何で?」
「綺麗ですから嫌なんです」
「そっか」

見えない一護は動きを止めた藍染に首をかしげる。髪はするりと藍染の手から逃げ、落ちて行く茜色の髪にやはり短くして欲しくないと心を決めた。

「じゃあ切って」

一護は綺麗といわれた嬉しさをグッと堪えながら藍染に催促した。












「これ、切ってない」
「切りました」
「短くなってない」
「勿体無いですから」

傷んだ毛先だけを切られた髪は大して変わらず、腰あたりまで届く。

「じゃあ結ぶ」
「駄目です」
「……何でだよ」

紐を取り出すと瞬時に取り上げられる。藍染の謎な行動に、ついつい口調がきつくなってしまうのも仕方ないと一護は思う。

「髪に跡が付いてしまいます」
「別に良いじゃん」
「断固拒否します」
「惣右介、お前そういうキャラじゃないだろう?」
「なんとでも言って下さい」

どうにも退きそうにない藍染に一護は口元を引きつらせたが、諦めたように深く息を吐いた。



END



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