Pledge

「奇遇ですね〜阿散井サン」
「浦原、喜助。な、んで、アンタが…」

喉の奥が痺れ、やっとの思いで搾り出した声に、目の前の浦原は不敵に笑った。




「見て、わかりませんか?」

浦原の腰掛けるベッドの上で、スヤスヤと眠るのは愛しい恋人。
浦原は橙の髪を愛しげに撫で、指を絡める。

「ウソ、だろ…」

導き出される答えは一つしか無くて、息が止まる。


「一護サンはまだ若いですからねェ…ずっとほったらかしにしておいたアナタが悪いんですよ」



「ん……」

髪から流れるような仕草で頬を撫でれば、一護はくすぐったそうに笑ってその手に擦り寄る。



触るな!

叫び、その手を振り払いたい衝動に駆られる。
そうしなかったのは、一護の安心しきった寝顔のせいだ。





「一護…!」

独り言のごとき小さな声で噛み締めるように呟けば、浦原の目が細められる。


「もういいでしょう、阿散井サン?」

隠意(あんい)に早く出ていけと言われていることに気付いて、唇を噛み締め一護の部屋を飛び出した。






「っ…一護!」

叫びは雨音に隠れ、闇空に吸い込まれる。







一護をほったらかしにしておいたのは、間違いなく自分自身。

仕事が忙しかったから、なかなか現世に行けなかった。





言い訳だ。

本当に大切なら、どんだけ忙しくても寝る時間を割いてでも、会いにいくべきだった。

掴んだ手を、何故放したんだ!俺は何度後悔したらわかるんだ!



閑散として冷たい部屋に横になり、床に何度も拳を振り落とした。
擦り切れた皮膚から血が滲み出すのも気にせず、
何度も、何度も…。

「一護…ッ!」

地にはいつくばる俺を引きずり上げてくれた。
あの太陽のように眩しい笑顔が、愛しくなった。男とかそんなのは全く気にならない。ただ、一護が好きなんだ。




「俺は…大馬鹿野郎だ」

悔しくて、涙が出そうになり歯を食いしばった。
思い出される、一護の寝顔と、浦原の不敵な笑み。

あの人は一護を大切にしてくれるだろう。
俺とは違い現世にいるあの人なら、一護に寂しい思いはさせないだろう。



一護の心があの人に移ったなら、俺は、身を退くさ…一護。















「なぁ一護、別れようぜ」




「え…?どうしてだよ?」

久し振りに会えたのに、恋次の口から出たのは別れの言葉。


声が震えたのは、もしやと思えることがあるから。





「浦原喜助」

びくりと、笑えるくらい肩が震えた。


バレたんだ。

唇が急速に乾く。何か言わなければと考えて出た理由は、喉のところで飲み込んだ。
寂しかったなんて言い訳にもならねぇよ。





自嘲的に笑い、思い出すのは自分の弱さ。一度だけと甘えた考えで、恋次以外に抱かれた。



恋次を裏切った日。


一ヶ月も会っていなかったら、イヤな考えばかりが浮かんできて、胸が痛んだ。
もしかして他に好きな人ができたのか?
やっぱり、女の人の方が…。
あの手で、あの唇で、
他の人を愛しているの?

疑心暗鬼は自分を追い詰めていく。


「一護サン」

ダメだと思いながらも、差し出された甘い逃げ道に縋り付いた。

「っあ、あうっ…んじっ…ッ!わりぃ…」

「構いませんよ。重ねてくださってもネ…」

甘い毒は麻薬と同じ、逃げ道をことごとく閉ざしていく。

「っア!」

今自分を抱いている男が恋次だと、錯覚させられる。



違うと体は叫ぶのに、脆い心は、夢を見た。

「お前は、あの人が好きなんだろう?」
「違う!」

戻ってきた現実で、恋次は固まった俺から目をそらして言った。
俺は首を横に振り、恋次の死覇装を掴んだ。


裏切ったのは自分。
嫌われるのは仕方ないけれど、誤解されるのはイヤだった。

「俺が好きなのは恋次だけだ!」
「嘘着く必要はネェよ」
「嘘じゃねぇ!俺は、俺は…」

一度も目を合わそうとしない恋次に、辛くて息が詰まる。


「恋次が好きだから…」












「…んで、だったらなんで他の奴に触れさせてんだよ!」

俯き、涙を堪えた俺の肩を恋次が加減なく掴む。痛みに肩をすくめようとするも、恋次の手の力のほうが強い。

「好きでもない男にお前は抱かせるのか?!」
「っ…!」

言い返すことなんて出来やしない。
恋次の言っていることは正論だから…。


「俺を馬鹿にすんな!」


痛い

痛いよ






恋次


「俺よりもアイツを選んだんだろう!」



掴まれた肩よりも

締め付けられる胸の痛みが





痛い



「俺が愛すのは恋次だけだ」


嫌ってもいいから

誤解しないでくれ





「寂しかった…


不安だった…



俺みたいな男より、女の人の方がいいと思ったから…」


ぽつり




ぽつり





堪えたはずの涙は無意識に溢れ出し、同調するように、飲み込んだ言葉が音になる。


「恐かったんだ…」

大切な人を失い、誰も自分を見てくれなくなる瞬間が来ることが


ああ、また
雨の音が不安を煽る



「馬鹿じゃねぇか…」


くしゃりと恋次の手が後ろ頭に触れ、悔しいくど俺よりも広い胸に顔を押し付けられる。

「俺もテメエも、バカだ…」
「恋次?」

意味がわからなくて顔を上げれば、赤くなった目尻と滲んだ瞳。


「泣いてんのか?」
「うるせぇ!テメエがバカなせいだろうが!」

「な…馬鹿って何だよ馬鹿って!馬鹿って言う方が馬鹿だろう!」

恥ずかしいのか怒鳴った恋次の言葉にピキリときた俺は言い返す。

「あぁバカだよ!俺はバカだ。でもテメエもバカだ」
「な……訳わかんねえ…」
「寂しいからって好きでもねぇ他のヤツに抱かせるテメエはバカで」
「っ!」
「寂しがらせて、それに気付かずに身を引こうとした俺もバカってことだ…」
「れん…じ」

くしゃくしゃと頭を撫でられて、我慢が出来なくなる。

ぼろぼろと、涙が止まらない。


「な、泣くんじゃねぇよ!男だろう、一護!」

慌ててあたふたしだした恋次に、笑みがこぼれる。

「はっ…ははははっ、かっこ悪ぃぞ、恋次」
「うるせぇよ!」

泣き笑う俺の顔の間近に恋次の顔が迫る。

「俺は、二度と一護を不安にさせねぇって誓う。だから、二度と浮気すんなよ」

触れるだけの、優しく長いキスの後、真っすぐな眼差しで恋次が告げる。


「誓うよ」


俺も、真っ直ぐに見据え、誓う。





この魂に


Pledge





後書き

男の子一護は久し振りで…大丈夫でしょうか?なってます?(不安)
浦原さんは今回悪役で…出張り過ぎましたm(__)m
恋一で手を出せそうなのはやっぱこの人だと思ったら…(^_^;

しかし…私は一護を寂しがりやな兎とでも思っているのだろうか?



霞鏡様
14000番キリリクありがとうございました!
大変遅くなってしまって…リクに添えているのかが不安なところですが、少しでもお気に入りましたらお持ち帰り下さいまし。煮るなり焼くなりお好きにしてください…(^-^;)
















2006/2/11



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