愛しい君のために
ボクは何が出来るのか



「ん……ギン、大好きだよ…」

柔らかな腕に抱きしめられ、ボクは微笑みを浮かべる唇に口付けた。


愛しい君のために


ボクは何が出来るのか





ガシャン!

「一護ちゃん!?」

突然の音に振り返ったボクは、その光景を見た瞬間に自分の血の気が引いていくのがわかった。

「一護ちゃん大丈夫!?」

割れた湯飲みは散らばり、破片で切ったのか白い肌に小さな切り傷。
それを気にすることも出来ないのか、口元を押さえ、苦しそうに息をする。その顔は真っ青になり、冷汗がひどい。



「一護ちゃんちょっと我慢してや!」

足下の破片なんぞは気にせず、早く彼女を四番隊に連れていかなければと、ギンは一護を抱き上げた。
瞬歩は、抱き上げている彼女にも多少なりに影響を与える。本当なら使わないほうがいいに決まっている。


しかし、なぜ急にこんなことになったのかギンにはわからない。
もし、間に合わなかったら?
もし、一護ちゃんを失うことになったら?


そないこと考えたくもない!




「うっ……ゲホッケホッ!!」
「一護ちゃん!」

考えている間に、激しく咳込んだ。
吐き気があるのだろうか、咳込めば瞳に涙が浮かぶ。




速く
早く




「卯ノ花隊長、一護ちゃんを助けてェな!!」

瞬歩で現れたギンに目を丸くした卯ノ花は、それでもギンの腕の中で真っ青になっている一護に気付くと、すぐに隊員に命令を出した。




「助けてや…」

「一護さんは大丈夫ですから、市丸隊長……ッ!勇音、市丸隊長の治療を!」

ベッドに寝かした一護ちゃんを見ながら、ボクは失う恐怖に震えた。

震えてただ同じことを呟き続けるギンに、卯ノ花は落ち着かせようと振り返った。
その時、真っ赤に染まった足元に気付き、慌てて副官を呼ぶ。

「市丸隊長、あちらで治療を」
「一護ちゃんのそばを離れるのはイヤや!」



「市丸隊長、一護さんは命に関わる病気ではありません」

駄々をこねるギンに、卯ノ花は優しく微笑みながら言う。

「……ほんまに?一護ちゃんえろう苦しそうやよ?」
「少し酷いおそなだけです」
「おそ?なんや、それ?」



「…一護さんが目を覚ましたら、きっと教えてくださいます。それより、目を覚まして貴方の足がそのようでは、一護さんは悲しみますよ」

卯ノ花はギンの足を指差し、ギンはやっと視線を一護から放して自分の足を見る。

「あぁ…ヒドイなァ。ほんまや、一護ちゃんにこないなの見せれんわ」

足の痛みなんて感じないけれど、悲しむ一護を想像し、胸が痛む。

一護ちゃんは自分以外が傷つくことをひどく嫌うから…。



「勇音」

ボクがどうしようかと顔を上げると、卯ノ花隊長は呆然としていた副官に声をかけた。

「あ、はい。じゃあ市丸隊長、こちらに……」





「…卯ノ花隊長」

はっとした副官に案内されて部屋を出ようとして、ボクは卯ノ花隊長を呼んだ。

「なんですか?」

「一護ちゃん、ほんまに大丈夫なんやね?」
「当たり前です」



「…ならえェんや」

ボクは一護ちゃんがいなくなってしまったら、ほんまにどうかなってしまうから。










「一護…」

握った手から伝わる熱にほっとする。

「ひどい汗…」

薬で眠っている一護の額に浮かんだ汗を拭き取り、ギンは息すら押し殺し、じっと一護の隣に座っていた。


「一護」

ゆっくりと体を休めてほしいと思いながら、同時に早く起きてと願う。
矛盾した思いは殺した息と時々呼びかける声に表れ、暗い室内でギンは唯一つの熱に縋る。


自分に出来るのはただ汗を拭き取って、苦しそうにうなされたら声をかけてあげることしか出来ない。

「一護ちゃん」

自分が不甲斐なくて、一粒だけ泣いてしまった。


「ギン…」
「一護ちゃん!?」

それと同時に、ボクの手を握り返し、一護ちゃんが目を開けてくれる。


「泣いてるのか…?」

ボクの頬に残った涙のあとに気付き、一護ちゃんの指がそっと目尻を撫でる。



「……ボク、何もできへんだ…」

大丈夫だったと気が緩んだのか、ボクはまた涙を溢れさせてしまう。


「一護ちゃん苦しんどったんに、ボクそばで見とることしかできんだ…」


「ギン…」
「……一護ちゃん?」


子どもみたいに泣いて、一護ちゃんが困っとるのに気付くから、それを止めようとするのに止まらんで、そんなボクの頭を一護ちゃんは引き寄せる。


「そばに居てくれてありがとうな」

ぽんっぽんっとあやすように背中を叩かれ、ボクの涙は止まる。





「汗拭いてくれてありがとう。ずっと手を握っていてくれて…嬉しかったよ」


ボクの大好きな笑顔。
止まったはずの涙がまた出てくる。





「ボクの涙腺、壊れてしもうた…」
「うん…今は、泣きたいだけ泣いてしまえ」

頭を撫でる手が、下で脈打つ鼓動が、ボクを甘やかしてくれる君が

「大好きやよ」


いつの間にか、ボクは睡魔にさらわれていた。












翌日。
見舞い客も一段落した病室で、ボクは気になっていたことを尋ねた。

「一護ちゃん、おそってなんや?」
「……それ言ったの卯ノ花さんか?」

「そやけど?」


ボクの言葉に、一護ちゃんは林檎を剥いていた手を止める。




「わざわざ難しい言い方しなくても…」
「一護ちゃん?」



「………手」

頭を抱えてしまった一護ちゃんは、ボクの呼びかけに頭を上げ、ボクの手を要求する。



「はい」

お手のように手を乗せると、一護ちゃんはボクの手をお腹に当てた。





「悪阻(つわり)のことだよ///」
「つわり?」

硬直。
頭の中もストップしてしまって、ボクは自分の手の場所(つまり一護ちゃんのお腹)を見る。








「……ここにおるん?」
「いるよ、ギンと私の赤ちゃん」

一護ちゃんを見れば、すごく優しい瞳でお腹を見ていて、本当なんだって思い、ボクはもう一度お腹を見る。








「…赤ちゃん……赤ちゃんや!」

嬉しくって嬉しくって、思いっきりはしゃいで




……卯ノ花はんに怒られて追い出された。

ひどいやん…赤ちゃんやなんて、はしゃいでもしかたないやろ?














「ボク、一護ちゃん似の女の子がええなぁ……ア、一護ちゃんはゆっくり座っとりや!ツラかったら横になるんやよvV」



「まだ早いよ…」

まだ予定日は半年も後なのに、ギンは一護に頼まれた卯ノ花に怒られるまで、一護に仕事どころか家事さえさせなくなった。





END

後書き

お題部屋8888番
しずか様キリリク小説
【酷い悪阻の一護を看病するギン】でした!

看病…少なっ!
リクに沿えてないΣ( ̄□ ̄)!しずか様すみません!

ギンが一護依存でお子様になってしまった。さらに一護ちゃん別人…なんでそないにギンに優しいの?(狽サこかよ!)

ところで、悪阻ってどれくらいキツいんでしょうか?まだ未経験なので人から聞いたものや読んだもので今回は想像してみました。


しずか様に限り苦情お受けします。どんと言ってやってください。

最後になりましたが、リクエストありがとうございました☆





あきゅろす。
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