新聞をヨム日(藍一)



「アレ?」

隊首室前に積み上げられた、見覚えのある紙の束。近付いて見てみれば、やはりその字が大量に書かれた紙は『新聞』。書かれている内容からして尸魂界製ではなく現世のものだ。

「あ、一護ちゃん!」

隊首室の戸ががらりと開き、黒髪の小さな女の子が姿をあらわした。彼女はオレを見つけるとぱっと表情を明るくする。

「雛森さん、お久しぶりです」
「もう、桃で良いって言ってるのに」

ぺこりと頭を下げると彼女は拗ねたように頬を膨らませてオレを見上げてくる。オレは苦笑いしてすいませんと謝ったが、外見的には見えないが年上の雛森さんを呼び捨てには出来ない。

「あの、ところでこれは…?」

納得していない雛森さんの表情に早く話をそらしたほうが良いと思い、オレは新聞の山を指差した。

「これはねぇ」
「現世のことも勉強しようと思ってね」

雛森さんが答えようとすると、開いたままだった隊首室から藍染さんが顔を覗かせた。相変わらず○ン様っぽい笑顔だ。なんて考えていると藍染さんの眼鏡に隠されている瞳がわずかに細められる。

「…そうですか。それじゃあオレは」

ぞくっと背筋に冷たいものが走りオレは踵を返してその場から離れようとしたが、振り向いた先には雛森さんが居てゆっくりしていってと隊首室のほうにオレを押す。ちなみにその方向に居るのはもちろん藍染さんで、オレの腰に腕をまわし丁寧に招き入れられる。

「それじゃあ私は今日は早上がりだから帰るけど、一護ちゃんはゆっくりしていってね♪」
「は?!ちょ、雛森さん!!!??」
「雛森くんご苦労様」

雛森さんはオレと藍染さんにお茶とお茶菓子を出すとそそくさと隊首室から出て行く。それにオレは慌てるが、藍染さんに口を押さえられて何も言えなくなる。藍染さんはその内ににこやかに笑って雛森さんに手を振っていた。

「ぷはっ!藍染さん何すんだよ!」

手を離されて思いっきり息を吐き出し、きっと睨み付けて言うが藍染さんにはどこ吹く風で全く怯んでくれない。それどころかどうして怒っているんだいとでも言いそうな雰囲気だ。
オレはそんな藍染さんに何を言っても無駄だと学んでいるために、怒り任せに茶菓子に楊枝を突き刺して口に運んだ。

「美味しいかい?」
「えぇ、とても!」

出された茶菓子は悔しいが本当に美味かった。

「それは良かった。さすが新聞に載っている店なだけあるね」
「は?」

まさか茶菓子探しのためにこの大量の新聞を読んでいるのか?

「まさか。それはついでに見つけたからだよ」
「…心を読むな」

平然と口に出していないことに対する返事をするから、オレはこめかみを押さえて溜息交じりに言う。

「一護のことは全て知りたいから、約束は出来ないかな?」

茶を啜り一息き、藍染さんはオレにとっては好ましくない返答をする。
俺はニコニコと笑っている藍染さんの表情を確かめ、溜息をつく。

「新聞もそのひとつか?」
「うん、そうだよ」

躊躇無く頷いてみせる藍染さん。オレは部屋の中にも積み上げられた新聞の山を見つつ、この人に好かれたことは幸せなのか不幸せなのか…と温くなった茶を啜りながら思ってみた。


END




あきゅろす。
無料HPエムペ!