デビューの日(浮一)

「あ」

手の上に積み上げられた書籍の山は視界を塞ぎ、一護はよたよたとそれを落とさないように歩くので精一杯だった。そう、前にある曲がり角から人が出てくることに気づけるはずもなかった。
急に訪れた衝撃に一護の体は後ろに飛び尻餅を着き、腕の中にあった書籍は崩れ落ちた。

「浮竹隊長大丈夫ですか!!」

一護の後ろから一護に書籍を運ぶように命じた男が慌てて駆け寄ってくる。その言葉のうちに聞き覚えのある名が出て、一護は慌てて立ち上がろうとしたが、足に鈍い痛みが走り声は辛うじて押さえ込んだが立ち上がることは出来なかった。男は『浮竹隊長』に謝っていた頭を上げ、いまだ倒れたままの一護を叱咤した。上からの厳しい言葉に一護はグッとこぶしを握り締めて耐える。

「俺は大丈夫だからそう責めてやるな」
「はっ。さすが浮竹隊長はお心が広く…」

一護の異常に気づかず無理やり立たせて頭を下げさせようとした男の手を遮り、刀を握る男性の手が伸ばされた。男はすぐに手を離し『浮竹隊長』に腰を低くして賛辞を送り続ける。

「大丈夫かい?」
「はい」

足のずきずきとした痛みは一段と強くなったが相手は隊長であり、自分からぶつかったのだ。そんなことを言える筈もない。一護は痛みに冷や汗が出た顔を見せないように俯いたまま答える。

「ふむ…上官に嘘をつくのは良くないな」
「ッ!?!?」
「無理をすることはない。それとも俺はそんなにも怖いと思われているのか?」

すぐに去ると思っていたが『浮竹隊長』は動かず、頭上から降ってきた言葉に驚いて顔をあげれば同時に体が宙に浮かび上がる。いや、見上げた先にいた白い長髪の温厚そうな笑みを浮かべた男性が、一護を横抱きにして抱き上げたのだ。
驚愕した一護は目を見開き言葉を失い、金魚のように口をパクパクとさせた。『浮竹隊長』はそんな一護の表情に苦笑いを浮かべ、困ったような口調で語りかける。
まだ言葉が出てこようとしない一護は慌てて首を横にふり、違うと意思表示をしてみせる。

「それは良かった。ならこのまま大人しく救護室まで連れて行かせてくれるな?」
「……はい」

答えに嬉しそうに笑った『浮竹隊長』は否と言えない事をわかっているだろうに訊ねてくる。
一護は小さく声を出し、頷いた。あの男に散らばった書類を頼むと言い残し、一護は『浮竹隊長』の腕に抱かれたまま救護室に連れて行かれることになった。






「あら?浮竹隊長どうかなさいましたか?」
「卯ノ花。ちょうどいい、『彼女』を見てくれないか?」
「え?!」

母のような優しい面差しの女性は一護たちが入ってくると少し驚いたように声を掛けてきた。その女性は先ほど紹介された人の一人だった。
四番隊隊長卯ノ花烈
だが、そんなことよりももっと驚くことを聞いてしまい一護は思わず声を荒げる。そんな一護に卯ノ花はあら?と首をかしげ観察するようにじっと一護を見つめ、『浮竹隊長』は心配そうに腕の中の一護に傷が痛んだのかと聞いてくる。

「違います!今、か、彼女って?!?!」
「それがどうかしたのか?」
「オレは」

男だと言おうとしたが、卯ノ花があらあらと声をあげて『浮竹隊長』に一護を診察台に下ろすようにお願いする。一護は診察台の上に座らされ、卯ノ花が一護の足に触れると激痛が走る。

「女の子だったんですね、黒崎一護さん」
「違ッ!」

卯ノ花に触れられているずきずきと痛む箇所が少しずつ温かくなっていき、痛みが治まっていく。少しほっとして息を吐くと、卯ノ花が相変わらず優しげな微笑で一護に語り掛けてくる。その内容に一護は慌てて否定するが、卯ノ花の瞳に言葉を詰まらせてしまう。

「しかし、浮竹隊長は良くわかりましたね」
「?何のことだ、卯ノ花?」
「ふふ、黒崎さんが女性とは私でも騙されましたのに、浮竹隊長はお気づきになられたでしょう?」
「どこからどう見ても女性じゃないか」

心底不明だといった表情をした『浮竹隊長』に卯ノ花はニコニコと笑ってそうですねと相槌を打った。

「ところで、えっと…」
「黒崎、一護です」

『浮竹隊長』は卯ノ花の言葉を相変わらず理解できていない様子だったが、居場所無さ気に下を向いている一護に気づき声を掛けてくる。すぐに言葉に詰まったのは自己紹介をしていないからだと思いつき、一護は自分の名前を言う。

「十三番隊長の浮竹十四郎だ。黒崎は何番隊だ?あまり見たことが無いということはウチの隊ではないだろうが…」
「浮竹隊長」
「卯ノ花?」

差し出された手を取り握手を交わすと、浮竹は朗らかに笑って一護に次の問いかけをする。
それを遮り卯ノ花は浮竹を呼び、浮竹はその声に振り返る。

「黒崎さんは今日入隊する予定だった十三番隊五席ですよ」
「…そうなのか?」
「あ、はい」

卯ノ花が浮竹が調子を崩していたために休んでいた隊首会で語られた新隊士である一護のことを教えると、浮竹は背中を丸めて目線を合わせ、一護に確認する。一護はこくこくと何度も頷き、卯ノ花と浮竹の表情を伺った。

「そうか!いや、よろしくな黒崎!」
「こちらこそ、宜しくお願いします。浮竹隊長」

卯ノ花は相変わらずニコニコと笑んでおり、浮竹は嬉しそうに表情を緩めて一護の頭を撫でた。髪がくしゃくしゃになるとわかっているが嫌な感じはせず、一護は黙ってそれを受け入れ、少し力が緩まったときに頭を少しだけ下げた。



END


あまりデビューという感じがしない…(苦笑)






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