本音


「好きVv」
「「「………え?」」」
「え、あ、な…?」

その場にいた隊長達全員が言葉を失った。

いや、ただ一人茜色の髪の少女の前に立つ男だけは目を見開き、面白いくらいにうろたえている。

「大好きだよ」

ぎゅっと男の袖を掴み、一護は珍しくうろたえる男を見上げる。
ほのかに赤く染まった目元、潤んだ瞳が嘘ではない事を語る。
男が落ち着くより早く、今まで現実逃避していた隊長達が一護に詰め寄る。

「な、何の冗談だい、一護くん?」

藍染がいつもならよく回る舌を噛みながら一護に問い掛ける。

「…一護、言う人間を間違えている」

朽木はその端正な顔を崩すことなく一歩前に出て一護を見つめる。

「一護ちゃん、エイプリルフールは昨日だよ?」

京楽は乾いた笑いを漏らしながら一護の真剣な瞳を見ないように目をそらし、親友に視線で同意を求める。

「一護…熱があるのか?」

浮竹は自分のほうが倒れるのではないかと思えるくらいに真っ青になり、京楽に次いで一護の身を案じる。

「オイ、正気か?」

日番谷は一護を見上げ、その前にいる男を睨み付けた。

「ほんまなん?」

市丸は呼吸すらままならぬ様子で一護を見る。

「本当だよ」

一護は迷いなく頷き、にっこりと笑顔を見せる。

「オレ、そろそろ身を固めようと思って…ずっと、考えてたけどやっぱり一番好きなのは…」

一護は真っ直ぐに見つめ、握り締めていた袖を少しだけ自分のほうに引っ張った。

「オレのこと、嫌い?」

交わった視線に、



































「せやかて、一護ちゃんずっと僕から逃げとったやないの」

ギンは困ったように眉をひそめ、昨日までの近づけば逃げ、触れば殴る蹴る斬魄刀を振り上げる一護を思い出し、今の一護との違いに頭を混乱させる。

「だって…恥ずかしかったもん///」

ギンの言葉に真っ赤になって俯いた一護に、周囲は撃沈した。

「一護サン!!」
「喜助兄さん?」
「……お、遅かったんですか?」

そのとき、扉を壊す勢いで開け(一部破壊)、浦原が飛び込んできた。その手の中には怪しげな紫色の液体。
唯一沈んでいなかったギンが目をやれば、浦原は一護の様子に床に膝を付き、頭をうな垂れさせた。ついでに液体は床に落ち、床に広がっていく。

「…ギン、結婚してくれ!///」

浦原の存在など完全無視で、一護はギンだけを見てプロポーズした。

「や、ちょお待ちぃよ一護ちゃん、なんや変やないか?」
「…ダメなのか?」

返事をせずに話を変えたギンに、一護は悲しそうに目を潤ませる。

「ダ、ダメやないて、ボクかて一護ちゃんがお嫁になってくれるんは嬉しいけど…」
「本当か!!」

ギンの言葉に一喜一憂する一護の姿は、まるで以前のギンを見ているようだ。

「…兄さん、一護ちゃんに何したん?」

ぎゅうっとギンに抱きついた一護を抱きしめ返しながら、ギンは部屋の隅で膝を抱えた浦原に視線を向ける。

「自白剤をちょこっと弄った物を飲んでもらっただけです…」

いじいじと床にのの字を書き出した浦原はあっさりとトンでもない事を口にする。

「そんな怪しげなもん一護ちゃんに飲ませたん?!」
「だって、一護サンの本音を聞いてみたいじゃないですかぁ!!ア、でもこんな本音は、聞きたくなかったっすよ!!」

ギンは浦原の言葉に一護を抱きしめる腕の力を強める。

(…自白剤ということは、これは一護ちゃんの本音?ボクのことが大好きで結婚したい?うわぁ、むっちゃ嬉しいんやけど!)

「ギン、苦しい…」
「あ、ご、ごめんなぁ。大丈夫?」

嬉しすぎて力の加減を忘れてしまい、腕の中の一護が身を捻り訴える。

「うん。なぁギン……」
「な、なんや?」
「………」
「い、一護ちゃん?」
「うぇ…」

急に黙り込んだ一護は突然口元を抑えて屈み込み、苦しげに嘔吐した。







ギンはそれに驚き慌てるが、周りは役に立たず唯一意識を保っている浦原もいじけていて声を掛けても無視される。その間にも一護は背中を丸くしてケホケホと辛そうに咳をする。ギンは一護の隣に屈み、背中をさすってやった。

「………っつう!!!!!///」

しばらくして一護の呼吸が整うと、顔をあげた一護と目が合う。ボンッと爆発するような勢いで真っ赤になった一護は悲鳴のような叫びを漏らし、しりもちを付いたままギンから離れるように猛スピードで壁際に向かって後ずさった。

「一護ちゃん?」
「う、嘘だ!冗談だ!浦原の変な薬のせいだ!!」

目をぱちくりとさせたギンが一歩近づけば一護は一歩分はなれる。その名前を呼べば首が取れてしまうんじゃないかと思える勢いでブンブンと首を横にふり、叫びだす。

「そんな……そんな///」

顔を隠そうと手で覆って俯いた一護の様子に落ち着いてきたギンはばらばらのピースを整理する。
(強く抱き締めた→どうやら薬を吐き出したらしい→正気に戻った→自分の言ったことは覚えている→真っ赤になって恥ずかしがってる→否定しているけど慌てている様子から見て嘘。―――――…あかん。)

「一護ちゃんめっちゃ好きやーーー!!!」
「うわぁ!!」

結論が出てしまえばギンの理性はぷちっと簡単に切れてしまい、抱きつこうと飛びつく。
しかし一護はいち早くそれを察知して瞬歩で部屋から逃げ出し、無我夢中で走り続ける。しかし、相手は残念ながら本能を解き放ってしまった市丸ギン。

「捕まえたVv」
「ヒャっ!!///は、離せ!!」

疲れてきてわずかにスピードが落ちると、後ろからぎゅうっと抱き締められ耳元で囁かれた。一護は変な声を出してしまった恥ずかしさも有り力の限りで暴れようとした。

「イヤや。一護がボクのことスキって言ってくれたんやもん、放したりせぇへん」
「ぅ!」

くるりと体を反転させられ、赤い瞳が一護を捕らえる。

「好きやよ、せやから逃げんといて。ボクの事見て、ボクの事もう一回好きや言うて」

赤から目が動かせない。普段とは違う真剣な声に、表情に、一護も普段のようにはいられなくなる。

「……す、きだ。ギンのこと、好きだ//」
どちらからともなく顔を近づけ、唇が重なり合う。
触れるだけの口付けだというのに、まるで体温をお互いに移し変えるように長く。

「あい、してる…」

離れた口から零れた音はどちらのものか?


END





あきゅろす。
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