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『3月14日』後編 イタサス

途中で買い物をしてたから、オレの住むマンションに着いたのはすっかり暗くなってからだった。暦の上では春だけど、まだ日は短く吐く息は白い。

車から降りて、手のひらを差し出せばおずおずと、でもしっかり手を繋いで「手が寒いからだぞ!」と精一杯の照れ隠し。
そんなことがいちいち可愛くて、つい抱き締めてしまいたくなるけど、外でそんなことをして「もう一緒に出かけない」なんて言われたら困るから我慢しよう。

オレの右手にはトマトとキャベツの入った買い物袋。左手には愛しい人の温かい手。手を離したくなくて、ポケットから鍵を出すのに苦戦しているとサスケが「何やってんだよ」と笑って鍵を取り出しドアをあけた。
「手、離したくなかったから、な」と耳打ちすると、「ばかじゃね」とそっぽむいてしまった。
すこし長めの横髪からのぞくサスケの耳朶が、薄暗がりでもわかるほど赤くなっていることに気付いたのは秘密にしておく。

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「ご馳走さま。料理、上手くなったな。」

「結構いけただろ?オレのオリジナルトマト鍋。」

帰ってきてすぐ晩ご飯の支度をしようと思ったら、キッチンに入ってきたサスケに「とっておきを作るから!」とリビングに押し返されてしまった。
せっかくオレの家に来たのだからと断ろうと思ったけど、サスケの張り切りっぷりを見て、任せることにした。
サスケが調理をはじめてから聞こえてきたガチャンとかバタンという物音に少し心配しつつ待つこと一時間。

出てきたのはトマト鍋にロールキャベツが入っている、これといってオリジナル要素があるとは思えない鍋だった。そして若干不思議な味がしたような気がする。けど、ほめてやるたびに最近では珍しくなったサスケの可愛すぎる得意顔がたくさん見れたから大満足だ。
他には幼なじみのナルト君がこの前の英語のテストで24点を取ったとか、オレの所属する研究チームで最近出た研究結果とか、お互いの近況報告のような話をした。


「じゃ、片付けるか!」

上機嫌で席を立つサスケの手首を掴んで呼び止める。

「サスケ、片付けもいいがオレは先にデザートが食べたいな。」

「それなら冷凍庫にアイスがあったぞ。」
そのままキッチンに向かおうとするサスケを逃さないように強く引き寄せた。反動でサスケはオレの腕の中に豪快にダイブする。

「ちょ…いきなりなにすんっ…!!」

勢いよく顔を上げて抗議するサスケの唇を塞ぐと、間近にある瞳が驚きによって見開かれた。
小さく開いた唇の隙間から自分の舌をねじ込み、ゆっくり味わう。トマトの味がするかと思ったけど、いつも通りの甘い味がするから不思議だ。キスに気を取られている隙にYシャツの裾から手を入れて吸い付くような肌の感触を楽しむ。


「…っはぁ、やっ…!」

「嫌、じゃないだろ…?」

口では嫌だと言っても、オレの首周りに腕を回して甘い吐息を漏らしている。そんな仕草がオレを煽っていることをサスケはわかってないのだろう。
一旦唇を離してカーペットに押し倒すと、抵抗らしい抵抗はしなくなったが、恥ずかしいのか目を瞑ってしまった。閉じた瞼、額、上気した頬に啄むように何度もキスを落とす。
子供のように素直でされるがままのサスケは普段の姿からは想像もつかない。こんな蕩けた表情を見られるのはオレだけだと思うと、頬が緩む。同時にこの可愛い顔を早く泣かせてやりたいという欲望が生まれる。
太股を脚の間に割り入れ、緩く反応している秘部を刺激してやると、ビクリと細腰を震わせ、密着した体の隙間に力の入らない手を入れてオレを押し返そうとしてきた。

「…っだめ…待ってよ…兄さ…ん!」

甘くかすれた声で「待って」なんて言われても、待てるわけがない。最近会ってなかったこともあり、迎えに行って車でキスした時は危うく理性が負けそうになった。

「もう待たない…と言ったら?」

一度動きを止めて意地悪な質問をする。

数秒の間、乱れた呼吸を整えてから意を決したように言った。


「こういうのは…ベッドで、したい。」


「ぷっ…くくくっ」

あまりにも真剣に言うものだから可愛くて、思わず吹き出してしまった。対するサスケはみるみるうちに顔がトマトのように真っ赤になり、目が潤んでくる。

「わ…笑うなッ!昼間からずっとそうやってオレをからかって、オレばっかりドキドキして…、兄さんのそーゆー余裕な態度がムカつくんだよ!」

「や…別にからかってるワケでは…」

「オレばっかり期待してて、オレばっかり舞い上がって、オレばっかり兄さんが好きで…っ…。」

口を挟む間もないくらいの勢いでまくし立てるけど、最後の方は聞き取れるか聞き取れないかの音量だった。それでも、サスケの気持ちを知るには充分だった。

「オレばっかり…か。」

小さなため息を一つ漏らし身体を起こして、オレの行動の意図がつかめず戸惑うサスケも一緒に起こす。そしてそのまま左胸の辺りに耳が当たるように抱き寄せた。





「…あっ。」




言葉より明白な鼓動でやっと気持ちが伝わったらしく、はにかんだ笑顔でオレを見上げる。

「そういうわけだから、許せサスケ、もう我慢出来そうにない。」

額にキスを落とし、幸せそうに笑うサスケを抱き上げて寝室へ向かった。



+END+


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