magicmash
MAGICMASH
ドラッグでキメた、
ことはないからわからないけれど、彼女といる感覚は、まさにそんな感じ。
フワフワあまく鼻孔をついて、彼女の声音で空気が揺れて、脳を直接さわられる、すごくイイ気分、になれるのだ。
その日はテスト期間中で、午前に受けた英語と数学は完全に落とした、かといって明日の化学に備えるわけでもない、という憂鬱な日だった。こういう日は、赤点仲間であるツナんちで、気を紛らすのが一番だったりする。
コンビニでお菓子やジュース、あと菊桃桜が巻頭グラビアの週刊誌を買って、ツナんちへと向かう道中。
「あ」
みつけた。
のは、前を行くピョンピョンはねるポニーテイルで、それは間違いなく、俺が昼夜ムラムラして仕様がない彼女の後ろ姿だった。そして俺は、その唇にのせるさえ甘い彼女の名を、呼ぶ。
「ハル」
「はひ、山本さん!こんにちは」
「ハルも、ツナん家?」
「はい、そうです!」
満面の笑みを浮かべる彼女は、目下、俺の親友に恋をしている。
「なんかいいことあった?嬉しそうだな」
「はい!実は、奈々さんから頼まれ事をされまして…今日いないからランボちゃんたちのご飯お願いね、って」
「なるほど、いいな、ハル、ツナの嫁みたいな」
「はひ!やめてください山本さーん!」
語尾をあげて、うたうような彼女の声に、耳がしびれて、視界が曇るような感覚におそわれる。そのままに、キャアキャア照れる彼女に、俺はふと手を伸ばしてみた。
その瞳を自分だけのものにしたいし、その黒髪を指に絡ませたい、その白い太股に触れて、その先をまさぐったら、彼女はどんな声でなくのだろうか。
「はひ、」
頬を触れられて、きょとんとしたハルは、俺の頭の中がどんな風に思考しているかなんて、想像もつかないだろう。俺が君を、毎晩どんなふうに鳴かせているか、なんて。
それがおかしくて、フ、と微笑ってしまう。
「あの……山本、さん?」
白い頬に触れて、まるで錯覚におちたかのように、唇に、ちかづく。
吐息だけの、距離。
「……ハル」
「ぁ、……」
瞬時戸惑ったように揺れる瞳から反らさずに。
「ごみ」
小さな後頭部に触れて、ついてはいない糸屑をとるフリをする。
「ついてた」
ニカッと歯を見せて笑って、顔を離す。触れた黒髪は、夢にみたように艶やかだった。
「はひ…すみません」
反射的に一歩後ずさったハルへ、もう一歩距離を縮めると、細い肩がビクリと跳ねる。明らかにハルは動揺していた。
「こわい?」
「え、」
「ハル、俺、こわい?」
「…ぁ、その、…少し驚きました」
へへっと力なくハルが笑った。
早くツナさんちに行かなきゃ、とハルが逃げるように歩みを早める。
その手にはスーパーの袋を提げていて、フランスパンやら葱がはみだしていた。
「パンと葱って、何つくんの?」
「はひっそれはですね」
持つよ、と手を差し出すと白い手が不意に避けた。
「……」
「…ぁ…ごめ、なさ」
真摯に、その揺れる瞳を覗きこんで、逃げた手を追う。
逃げられないようにハルの足元を塞ぐと、ハルの歩みが完全に止まった。
「や、やまも」
「…ハル」
ハル、その名はまるで呪文だ。
口にすればするほど、頭の中でアドレナリンが溢れて、体の芯がアツクなる。
視界にハルが入れば、耳にその声を聴けば、脳が震えて、体中に司令を送るんだ。
目の前の彼女を、捕獲せよ、と。
「ハル」
もう次は逃さない、そう白く濡れる唇を見つめて、細い手首を絡め捕った。脈がトクトクと鳴って、ハルの早鐘を知らせていた。
じっと戸惑う瞳は、眼前にある山本武を、まるで初めてみる宇宙人だと認識していた。その瞳を覗きながら、首を傾けた。
「ゃ…!!」
小さい声が助けを求めて震えた瞬間、脳が停止した。
腕に囲う小さな体が震えていて、眼下に揺れる睫が、水分を湛えだしていた。
陶器の肌が、更に白く青ざめる。
「荷物、かして」
そう情けなく呟いて、一筋流れた涙を指で拭えば、その涙は温かく、頬は夢にみたように、すべらかだった。
手提げ袋を奪った指は、冷たくて、小さくて、少ししっとりしていて、気持ちよかった。
少し大股でツナの家の方角に、足を運ぶ。
後ろからトボトボついてくる足音は頼りない。
ああ、ハルが好きだ。
彼女をこの腕に囲って、めちゃくちゃにキスをして、その細い背が軋むほどに、抱きすくめたい。
イヤイヤをされれば、それだけでイケる気がするし、濡れた瞳で熱い息を吐かれたら、もう二度と他の女は愛せない気がする程に。
ハルが、好きだ。
やがてツナの家の前に着き、ハルを振り返ると、ビクリと小さな体が揺れた。その姿は、昼下がりのぼやけた午後に不釣り合いだった。
「ハル」
「……」
「俺も、飯食ってっていい?」
そう尋ねると、力なくハルが、はい、と答えた。
取り繕った笑顔は、それでも、ずいぶんと魅惑に溢れていた。
また麻痺し始めた脳を必死に制止する。
「先、はいれば?」
どうぞ、と玄関の戸をあけて恭しくお辞儀をすると、ハルはすみません、と小さく答えた。
しゃがんでローファーを脱ぐ仕草の愛らしさや、襟元から覗く白い素肌のなまめかしさに、俺はまた手を延ばしたくなった。
そそくさと部屋へ入るハルの小さな背中へ、なんも、しねぇよ、そう一人ごちて、ああ今夜は夢の中で彼女をどんな風に鳴かせようか、そればかり考えていた。
2009.4.24
山本ごめん!
そして誕生日おめ!
山本がハルにどろどろにおぼれるのが、自分の中での山ハルです
山本君にとってハルちゃんは、麻薬みたいな依存性があるといいな
100,000ヒット、ありがとうございました!!
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