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ベスト☆コンビ
嫌われるよりは好かれたい…
そう思うのはいけないこと?
僕は君にとって

……何?




【ベスト☆コンビ】




「ねぇ、ラビ…」

「なにさ、リナリー?」

「アレン君と神田って物凄く仲悪くない?あんな調子で任務平気なのかしら。」

「へーきじゃねぇの?」


***



僕はリナリーとラビの3人で食堂に居た。
もちろん昼食を採る為に。
いつものようにオーダーすると、ジュリーさんは物凄く不思議そうに僕を見ていたし、2人は『良くそんなに食べられるな、ありえない』って顔で少々引きつっていた。
そんないつも通りの食事を終えた後、廊下に出てゆく彼を見つけたので、急いで追いかける…


「神田。」


背も歩幅も僕より大きな神田に追いつくには、それなりに気力と体力がいる。
自然と早足になってしまう…
見失う前になんとか引きとめようと思い、名前を呼んでも応答はナシ。
もしかしたら聞こえなかったのかもしれないけど、なんだか寂しかった。


「神田。」

「……。」


今度のは絶対に聞こえたはずなのに、返事もなければ、立ち止まる気配すら全くもってない。
流石の僕も、そのあからさまな行為にイラッときてしまったので…


「神田っ!」


つい、怒鳴ってしまった。
怒声は廻りの冷えた空気を振動させて、波に変わり、君の元へと届く。


「んだよ?」


かなり不機嫌そうに振り向く神田。
イライライラ…と背後に言葉をしょってそうな勢いだ。
いや、事実そうなのだろう。
僕は一瞬たじろいたけど、止まってくれたことが嬉しく思えて、胸の中が暖かくなった。
呼び止めたくせに、何も喋ろうとしない僕に神田は痺れを切らし、『チッ』と舌打ち。
慌てて切り返した。


「食堂で気付いてましたよね?あいさつぐらいして下さいっ!人としての常識ですよ!!」

「あ?関係ねぇな。そんなもん。第一挨拶ってのは人と人との友好関係を円滑にするもんだろうが。他人と馴れ合うなんてのは、俺には必要も無いし、そんなことに費やす時間が無駄だ。」


キツメの漆黒の瞳でキッパリと言われたら、何も返せなくなってしまう…
君はそのことを知ってて、わざとやっているんですか?
それは理不尽な事を言った僕が、君を不機嫌にさせてしまった事には変わりは無いけれど…
でも、強く人を拒む瞳の中には、どことなく寂しさをたたえている気がしてならない。
だから君のことが気になってしまうんです。


重なる…
寂しさを抱えていた
幼い頃の、自分と。



「普段しゃべらないくせに、こういうとこだけは言うんですね。」


思いとは裏腹に辛辣な言葉を発してしまう僕。
それによって、神田の顔がイラつきで歪むのが嫌に解った。
こういう所が嫌われているのかな…そう考えただけなのに、とてつもなく恐ろしくて、ワイシャツの背中にはかいたことの無い汗が染みる。


キライニナラナイデ


「理由言わねぇとお前、1日中付いて回るだろうが!」


額に青筋を浮かべた神田が一言怒鳴る。
嫌いだから怒鳴るのかもしれない…けれど、いつもと同じ彼の行動に安心感を抱いたのも確かだった。
無視しないで向き合ってくれる。
加えて僕の行動パターンもお見通し。
不謹慎にも嬉しくなってしまった。


「だって、僕は入ってきたばかりで神田のこと良く知りませんし、任務は3日後に控えてるんですよ?君のこと何も分かっていなかったら、どう対処して良いか困るじゃないですか。」


やっぱり可愛くない返事をしてしまう僕。
今度は、少しだけ常時よりもやわらかい神田に調子に乗ってしまったのかもしれない。


「そういうのがウゼェんだよ。モヤシ。」


何かが勘に障ったのか、吐き捨てるように言われた。
刹那、神田は踵を返して、廊下の曲がり角へと姿を消した。


「ちょっ!神田!!モヤシって言わないで下さい!」


とぼけたように僕自身を誤魔化して、言う言葉。
本当はね、モヤシって言われても構わない。
だけど…

イカナイデ
キライニナラナイデ

僕は君の何に触れてしまったの――?



***



あれから神田を追う気にもなれず、何がいけなかったのかも解らず仕舞いで…
どっと出てしまった疲れのせいか、机にへたり込んだ。


キラワレタノ?


「はぁ〜」


ひとつ溜息。
こつんと机に頭を打つ。


「ふぅ…」


ふたつ溜息。
堅い机の痛みから逃れる為、頭の位置をずらすと、人影で視界がほんのり暗くなった。


「アレン君?」


明るく、愛らしい声に顔を上げれば…


「リナリー…」


神田と同じ、漆黒の瞳と髪を携えたリナリーが立っていた。
塞いでいる僕に笑みを零し、『大丈夫?』って心配してくれた。
その時、自然に心が軽くなったんだ。


「どう?神田リサーチは進展あったかしら??」

「いえ、何も。」


にこやかに聞いてくるリナリーに苦笑で答えると、やはり彼女も困ったような苦笑をして返す。


「…神田はねぇ。取っ付きにくい所があるけど、結構シンプル(単純)なのよ。だからきっと大丈夫!」

「そうは言っても…初対面で斬り付けられるは、『呪われた奴と握手なんかするか』って言われるは…僕ってホント、神田に嫌われてるんですよね…」


自分で言いながら過去を振り返ると、とてもじゃないが好かれる要因が無い。
むしろかなり嫌われている気がする…
それが不安へと変わり、神田と対峙することに恐怖を感じてしまう原因となっている。
けれど自分ではどうする事も出来ない。


キライニナラナイデ


そう祈る事しか出来ない僕は、さぞ弱々しく見えたことだろう。
嫌な考えを振り払うのに必死だった。
リナリーはただ黙って聞いていてくれていた。


「……(卑屈になってるわ、アレン君)」

「まぁ、あと3日ありますし、何とかやってみますよ。」

「うん、頑張って!!」


『頑張って』か…出来たらそうしたいって願ってるから…
神様どうか、僕にチャンスを下さい――



***



アレンが食堂から消えて、部屋に入った事を確認してから、リナリーとラビは作戦会議。
今まであった事をラビへと報告している所だ。


「あ〜ユウってばホントしょうがないさー」


アレンの様子の詳細を聞いたラビは、どうも愛想の悪い親友に悪態を吐き、天を仰いだ。


「だからラビ。神田にアレン君の何処が嫌なのか聞いて欲しいの!嫌なところを治せば、きっと分かり合えるはずよ!」

「わーった。いっちょ行って来ますか☆」


リナリーから指令を受けて、神田の所へ何故か槌で飛んで行ったラビ。
気のせいか、壁が何枚か貫通しているように見える…
が、そんなことはお構いなしに、ノー天気兎はぴょんと身軽な動きで神田の背に跳び付いた。


「ユーウ!」

「……。」


ラビが語尾にハートマークを付けて呼ぶと、ほぼ正反対の怒りマークを付けて無言で返す神田。


「なにその『ウゼェ、消えろ兎』みたいな目は〜ユウはそうやって、いつもおっかない顔してるから遠巻きにされるんさ。女の子のアレの日じゃないんだから、そんなにイライラするのは―――


ドゴッ


言い終わらないうちに壁を叩き割ったような音がした。
まぁ、もともと顔立ちが整っていて、目付きさえ良ければ女と見間違わない事も無いルックスの神田は、『女』という単語には非常に敏感だった。
多分、からかわれてきたのだろう…いや、ラビの喩えが悪かったのかもしれないが。


「さっさと用件を言え。」

「えーっ」


背中から無理矢理ひっぺがされたラビは不機嫌そうに口を尖らせ、意義を唱えた。
そんな旧友(いえ、数少ない現役友達)に神田はギロリ、と効果音が付く位の睨みを利かせ…


「抜刀するぞ。」


夢幻に手を掛ける。


「スイマセンデシタ。調子乗りマシタ(ユウ怖いさ〜)」


当然の如く焦るラビだが、持ち前のポジティブさとマイペースさですぐに立ち直った。


「えーと…アレ

ゴッ

また言葉を遮られたラビに、何かが掠った気がした。

ズゴッ

数秒遅れて、壁に硬物質が勢い良くぶつかり、めり込んだ音が聞こえた。


「モヤシの名前を言うんじゃねぇ…」


聞けば、かなり単純な動機…じゃなくて、たかがそんな事で仲間を、良くて脳挫傷、悪くて頭蓋骨陥没骨折にするほどに殺気を込めてモノを投げるもんじゃないと、手に汗握ったラビは思う。
しかしながら、アレンを心底嫌っている神田にとっては『女』と同じくらいの禁止ワードなのであった。


「え!え!?ユウさん何か飛びましたよ!?」

「で、用件はなんだ。もう2度と聞かねぇからな。」


動揺中のラビの問いには耳も傾けず、ひたすらに睨みを利かせている神田。
何が投げられたのかは、この際黙秘しておこう。


「だからア…じゃなくてモヤシの何処が嫌いなんさ??」

「全部。」

「いやいや、具体的に頼むさ。」

「…全部、だ。」

「全然具体的じゃないさ。」


ギロッ

本日4度目なのかも良く分からない睨みをした神田。
具体的にと言われて、全部と答える…流石公式で馬鹿と言われているだけのことはあります。
数秒置いてから、溜まっていたものを吐き出すかのように口を開く。


「強いて言うなら…エクソシストのくせに呪われてる所・紳士っぽくいい子ぶってる所・いつもヘラヘラ笑ってる所、これはホント虫唾が走るな…考えなしに感情で動く所・人の領域に土足で踏み込む所―――」

「ユ、も、いいさ。十分さ。ありがとな!!」


これ以上聞いたら一生終わらんと確信したラビはたったかと脱兎の如く逃げ出した。
さりげなくお礼を言いつつ、手を振るのは彼の人徳なのだろう。


「…結局何がしたかったんだ?」


突発的なラビの行動は、神田の頭上に?マークを献上することで終了した。


***



「ラ〜ビっ!どうだったの?」


食堂で待っていたリナリーは赤髪を見つけるや否や、キラキラとした目で走り寄った。
一方ラビは、神田から逃げる祭に後先考えず槌を使ったので、壁にぶち当たったところを擦りながら息も絶え絶えに言う。


「あ、え、ユウはな、相当重症さ!」


興味津々のリナリーに
深刻そうな表情のラビ…


「アレンの全部が嫌いだって!!!」


ホール中に響き渡るのではないかと思うくらいの大声で叫んだ。
食堂に居合わせたファインダー達やエクソシスト、ジュリーはなんとも気の毒そうな、ばつの悪そうな顔をしていた。
背後から、綺麗な少年の声が聞こえたからである。


「そうだったんですか…」


背後にどんよりとしたオーラを纏ってゆらりと現れたアレンに、2人は同時に肩を震わす。
リナリーは目を見開いて恐る恐る振り向いた。


「ア、アレン君…」

「やっぱり嫌われてたんですね…」


今にも泣き出しそうな感じに俯くアレンに、リナリーもラビもどうしたら良いか必死で考えを廻らせる。


「ア、アレン・・ユウのことだから、きっと意地張ってるだけさ!気にすんな!」

「いえ、いいんです。もともと神田とは合わないなって思ってましたから…」


ラビが肩を優しく叩くと、はにかんだように笑って、言葉を紡ぐ。
しかし、だんだんと語尾が小さくなっていって…また俯いてしまった。


「僕は、大丈夫…」


自分自身に言い聞かせるように、力なく呟くアレン。
レンガの床には、周りよりもトーンの暗い丸い染みがいくつか出来ていた。
『部屋に戻ります』そういい残してアレンは消えた。


「泣いてたさ?」

「泣いてたわね…」


2人は溜息を付いていた。



***



ふらふら、としながら無駄に長い廊下を部屋目指して歩く。
自分でも足元がおぼついていなことくらいは、自覚している。
何が原因かだって、ちゃんと…わかってる。


キラワレタクナイヨ


そんな考えが頭を過ぎった。
嫌われているのは決定事項なのに、何を今更、期待しているんだろう?


キライニナラナイデ


―――馬鹿、みたい。


「別に嫌われてたって…構わない。」


想いとは裏腹な言葉を噛み締めた瞬間、思考も足元もぐらついた。
倒れる…!そう思ったけれど…

ドッ

突然の人の感触に驚き、急いで離れる。


「す、すみませんっ!前見てなくて」

「痛ぇ…ちゃんと前見て歩け、モヤシ。」


頭上から降り注ぐ声に自然と顔が上がる・・・
先を見れば不機嫌そうに眉根を寄せる君。


「あ。かん、だ…。」


唐突で、今の感情が良く解らなくて、ぽかんとしながら呂律の廻らない状態で彼の名を口にした。


「んだよ…って、何泣いてんだ?」

「……別に。」


神田に泣いてると指摘されて、改めて自分が涙を流していた事に気が付いた。
漠然とした悲しい感情があることはなんとなく知っていたけれど、それが形になっているなんて…
しかも泣き顔など、1番見せたくない相手に見られてしまった。
どうしてよいのか見当も付かないから、とりあえず拭えきれない涙を拭ったんだ。


「…そんなんで任務なんか務まんのかよ?」

「………。」


ズキンと心の傷に塩を塗りたくられたよな気分。
返す言葉が見つからないけれど、はっとして顔を上げた。
神田は僕の行動にやっぱりイライラしたんだと思う。
言動が当社比できついし、神田は僕の目を捕らえて離さない。
底知れぬプレッシャーを感じて、

すごく、
すごく、

怖い。


キライ…?



「自信ねぇなら下りるんだな。俺には足手まといは必要ない。コムイに頼んでラビにでも―――」


『必要ない』その言葉に胸がつかえたように苦しくなった。

苦しくて
苦しくて
堪らない。

どうして良いか解らなくても、苦しみは増すいっぽうで…
行く当てのない涙が零れた。


キライハイヤダヨ…!


もう駄目駄目ならいっそのこと言ってしまえばいい。
感じるままに僕の全てを。
苦しみが消えるのなら。

…言って、しまおう。


「神田が悪いんですよ!!!」

「あぁ?」


第一に発せられた言葉は『神田が悪い』
神田はその言葉に、疑問とほんの少しの怒りを混ぜて僕を見る。
最も、僕自身もそんなことが口を付いて出るとは思わなくて、正直焦っていたんだ。


「神田が、僕の事嫌いだって…聞いた、から…」

「…だから何だってんだ?」


愕然とした。
返ってきたのは肯定に近いもの。
僕はやっぱり嫌われて―――


「お前は、万人に好かれてねぇと気が済まないのかよ?」


遮られるように言われた。
神田の言ってる事は最もで、真実だった。
万人に好かれる人間だなんて、この世の中に存在しない…

だけど


「そんなことっ!嫌われてるより好かれてる方が良いに決まってます!!」


きっと誰もが思っていること。

キラワレタクナイって…


「はっ!おめでてぇ野郎だな。だから俺はお前が嫌いなんだよ。」


ただ、神田にはそれがなかったんだ。
僕にはない、強い部分が君にはあった。
眩しくて、羨ましくて。


「…僕は神田だから、神田だから嫌なんです!」


キライニナラナイデ


この感情を君に知って欲しいから、言ってしまおう。
眉間にしわ寄せて、不機嫌になっている君だけど。


「神田には嫌いになって欲しくないっ!!」

「……やっぱりお前はモヤシだな。」


寂しさに飾られた微笑が見える。
僕の目にもはっきりと。


『俺なんかに構うんじゃねぇよ』


何か、聞こえた気がした。


「え?」


疑問符を唱えても、神田は答えてくれはしない。
でも、さっきまでの緊迫さや悲しさ、寂しさはなくなっていた。

とても温かな気持ち。
それは僕に向けられた君の眼差しが、とても暖かだったからでしょう?


「おらっ任務は明日だろうが!資料、取りに行くぞ。」

「は、はいっ!」


長い髪を翻し、歩き始める。
スタスタという急ぎ足に追いつこうと、君の背中を追いかけてゆく。
安心する、この大好きな大きい背中を見ていよう。
それだけで、僕の中に芽吹く暖かな気持ち。

今日の、良く晴れ渡った青空に似ている。




僕らは喧嘩をしているくらいが丁度いい。



end



あとがき
前サイトでのDグレ初小説でした!
とりあえず、描いた時はBL苦手だったので(今では考えられませんが☆)神アレって感じになってても変なことにはなっていません^^
あくまでも友情?なんですよ。多分。うん。

こんなに神田は優しくないですよね。

ラビとリナリーの方がベストコンビなのやもしれません(笑)

変なあとがきになりましたがこれにて失礼。


2007/01




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