春心地
わからない
どうしてこんな気持ちを宿しているのか
心が暖かく波打つのか
わからない
でもそれは…
小鳥が囀るような
あたたかなはるのようきのよう
春心地
はるごこち
とある日の談話室で、***とラビは夜遅くまで起きていた。
もう2人の間では恒例行事となっている。
ただ、いつもと違うのは
静まった部屋に響いてしまうのではないのかと不安になる…
私の心臓の鼓動。
「***って恋する乙女さぁ〜」
「え…?」
「だから、ドキドキするんっしょ?それって恋だと思うケドな。」
「…よく、分からない、です。」
誰かを愛するという気持ちは、とうの昔に置いてきてしまったから。
「……」
切なげに目を伏せた***の顔を見て、自然に出来た鋭い眼差しを向けるラビ。
愛しくて
抱きしめたくて
反射で***の肩に届いた手を理性で制止するかのように、頭に移して撫ぜた。
わしゃわしゃと、優しく。
「わっ!!?」
「そーんなに悩まないの。」
驚いて、撫でていたラビの腕に触れると、彼はニッって笑ってくれた。
不自然な笑みに引き止めようとしたのだけれど、
『俺だったらいつでも大歓迎さ〜』
そう言って行ってしまった。
そこには、超えられない一線があった。
超えたらきっと、壊れてしまう一線が。
「…ラビ。」
取り残された***の声は談話室内に小さく響いた。
一方、ラビは扉にもたれ、顔を覆い天を仰ぐ。
「……ふぅ。辛いさね…」
呟きとともに、足音はだんだんと遠退いていった。
***
ラビは教団裏の緑生い茂る森にいた。
別段用があるわけでもなく、ただ『居た』
上を眺めれば星たちが照らしてくれる…
なんだか気持ちがリセットされるんさ。
「いたっ!!」
ガサッという音と共に耳慣れた声が聞こえる。
目を見開いて見えた先には―――
「***…?どうしたさ!?」
急いで森を抜けてきたのか、切り傷だらけで苦しそうに息を切らした***がこちらを向いて立っていた。
駆け寄ると、肩で息をしながら喘ぎ喘ぎに言葉を紡ぐ。
「っと、こ、こに来たら、逢える、思った…から。」
「なんで…」
戸惑いと疑問が全身の駆け巡っていくような、不安で落ち着かない心。
『なんで』じゃない。
本当は解ってたんさ…
「ラビに、逢いたいって思いました…っ!」
「っ―――!」
耐え切れなくなって、ラビは***を掻っ攫うかの勢いで引き寄せ、抱きしめた。
せがむ子供のように。
「なんで、なんで俺なんか選んだんさっ!俺は…」
「だって…」
「俺は、ブックマンなのに…!」
使命感と辛さがラビの頬を伝う。
***を好きになってしまったこと
***に気付かせてしまったこと
全て術中にあったことをラビは己として攻め続けてきた。
自責の念に縛られているラビに困ったような、寂しげな表情を浮かべて***は言う。
「……貴方に恋する乙女だから。」
それじゃ答えになりませんか…?
と。
幸せそうな綺麗な声はやんわりとラビの心に染みていった。
「好きさ。」
「うん。」
「絶対に離したりしない。」
傷口にやさしく口付けて。
***
わかった
心が暖かく波打つのは
あなたに恋をしているから
わかったんだよ
それは
小鳥が羽ばたくような
あたたかなはるのはなごよみ
end
あとがき
はい、ココまで読んで下さりありがとうございました!
甘くいきたい!そう思って書いたはずなのに、前半シリアス・・・あれ?
ちょっぴり可愛いかな?って云う子が主人公、、好きです^^
2007.4
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