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ぼくはそのりゆうをしらない


ひとつ、またひとつ
君から笑顔が消えていく





【ぼくはそのりゆうをしらない】






僕が焦がれたその女性は兄さんの大切な人だった。
初めての出会いはミッドガルへふらりと出かけた時、兄さんと彼女が並んで歩いているのを見かけたこと。
とても、とても幸せそうな笑みに、
魔法にでも掛かったように、
一瞬で恋に落ちてしまったのを憶えている。
でも、名前も知らない彼女は兄さんの大切な――ひと。
僕なんか出る幕など無い。

そう、思っていたのに。



「迷子かな?」


優しく透き通った声を聴いた。
振り返ると、声音に似合う優しげな笑みを携えて首を傾げる君。
思わずドキリとした。


「大丈夫?具合悪のかな?」


突然の出来事に硬直してしまった僕の身体からは中々言葉が発せられず、それを心配そうに見遣る君。
慌てて、言葉を切り返した。


「だ、大丈夫っ!」

「そう、良かった」


君は僕がそう答えると安堵したように微笑み、良かったと呟く。
それから、ほんの少しだけど2人で話をした。
僕が迷子でない事を告げると申し訳なさそうに、けれど何処か可笑しそうに笑っていた。
終止笑みを絶やさなかった君。
その笑顔には周りの誰もが幸せで満たされてしまうようなそれで…
本当に好きだと思った。
ずっと、見ていたいって、
それが叶わないと知っていても。


今思えばこの浅ましい願いこそが、罪だったのかもしれない…




「***っ!探したんだぞ!!」

「クラウド!」


暫くして兄さんが彼女を迎えにやって来た。
それもすごく息を切らしてて、彼女の事をほんとに大切に想ってるんだなって思ったら、少し胸が痛んだ。

「っ…!?お前っ***に何の用だ!」

兄さんは僕を見るなり敵意剥き出しにして、彼女を守るように自分の背に隠して…
まるで、自分のものだと言っているように。
それが無償に腹が立った。


「別に、ただ話してただけだよ」

「嘘を吐くな…」


事実を嘘呼ばわりする兄さんに物凄くイラついて、思わず怒鳴ってしまったんだ。


「嘘じゃないって言ってるだろ!」

「クラウド、本当よ。ただ話していただけ」

「……悪かった」


謝った兄さんを見たらなんだか益々腹が立ってきて、自分の感情がコントロール出来なくなりそうな自分が怖くてその場を逃げ出した。
背後に「名前は?」って小さく聞こえた気がしたから、とりあえず「カダージュだよ」って大きな声で叫んでおいた。


彼女の名前は―***。



***



翌週から頻繁にミッドガルに出向くようになった。
***と話したあの日から、また逢いたいという気持ちばかりが大きく育ってしまったから。
母さんを探している僕にそんな感情なんてないはずなのに、
どうしても忘れられなくて、今に至っている。
物陰からこっそりと覗くだけで良かった。
君の笑顔が見られればそれで。
なのに、どうして?
兄さんと居る時はいつでも幸せそうに笑っていたのに、どうして
笑わなくなってしまったの―?
いつからか、***の笑顔が曇り、翳り、そして消えた。
代わりに苦痛に顔を歪める痛々しい名無しさんばかりが目に付くようになっていった。
いまはもうミッドガルにすら来ていない。
居るのは兄さんただ一人。

どうして?


***


星痕症候群、ジェノバ細胞を内に秘めた者だけが掛かる原因不明の不治の病。
***もその一人だった。
ただ、***は特に進行が早く、最早自力で立って歩く事が出来ない状態でここ数日は寝たきりとなってしまい、体力も気力も限界に近付いていた。


「クラウド、私、もう駄目かな…」


涙を必死で堪えた瞳でクラウドを見ながら掠れた声を紡げば、彼は目を見開いて必死に頭を振った。
嫌な考えを振り払うかのように。


「っ言うな!」

「ごめんね。」


***は弱々しい微笑をクラウドに送ってから天上を見つめ、うわ言のように呟いた。


「あの子、カダージュはどう、してるかな…?」


「ね、クラウド……」




***




ねぇ神様、これは僕への罰ですか?
笑顔が見られれば良いと言っていたのに、逢いたいと願ってしまった僕への。

***がミッドガルへ姿を見せなくなってから早一週間。
そして、カダージュがミッドガルへ行かなくなってから3日目の今日、彼は廃教会に来ていた。
神に祈りを捧げて。

なにも知らない僕は***が無事である事をただただ祈る事しか出来なかった。
健気で、途方もないことかもしれないけれど。
僕にはそれしかなかったから。

祈りを終えると僕は泣き崩れるようにその辺のイスに縋り付いた。
教会から嗚咽が洩れていた事を、だれも知らない。




僕が焦がれたその女性は兄さんの大切な人だった。
とても、とても幸せそうな笑みに、
魔法にでも掛かったように、
一瞬で恋に落ちてしまったのを憶えている。


彼女の笑顔が消えた理由を僕が知る由も無い。





あぁ、ぼくはなにもしらないんだ





end





あとがき

カダ夢2弾!
シリアスは個人的に大好きです。
孤独になって、感傷に浸るのが好きなんです。ひたひた〜♪
(暗いやつとか言ってくれるな!)

今回のお話はカダさんの想いは報われなくて、しかも主人公死んじゃった…?ぇえ!?
死ネタチックですみません。
しかもクラウドの恋人設定って…

うん、でも悲恋なんで。
コレぐらいが丁度良いんじゃぁないでしょうか(逃 げ た)


2008/3/6





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