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秋霖
灰色の空を見た
貴方と…




【秋霖】






しとしと、と雨が降る

重く暗い空から

泣きたくてももう泣けない

皆を…貴方を

失った時空に涙は枯れてしまったから


雨は…好きじゃない

変わりに泣いているようだから…



苦しい…から……






「…っ、望美!」

「え…?」


遠くで声が聞こえて振り返ると、真後ろにヒノエ君が立っていた

完全に気が付かなくて

苦笑した後に真剣な瞳に射貫かれた


「え?じゃないよ。どうしたんだい?何か辛い事でもあったのか…」

「な、なんで?」


「……泣いてる。」


頬を触れば、暖かな雫がぽたりぽたり…

何故だかは分からない…

でも


「本当だ…」


嬉しくて、思わず貴方に抱きついた

雨は、空から音を立てて降り続けている

なのに、貴方が傍に居るだけで悲しさや寂しさなんて感じない


「おかしいね。」

「何がだい?」

「もう涙は全部枯れちゃったと思ってたのに」

「そんなことあるはずないね。」


「俺の可憐な神子姫様は、人の痛みが解るんだ。」

「…ありがとう」


嬉しい時だから流れる涙もある

それでも縁側から見える空は重々しい…

あれは失った悲しみの雲だから




降り注ぐ雨は…

私の涙だから




「ねぇ…ヒノエ君。」

「何かな?」

「少し前にもこうやって雨空を眺めたよね。小さい窓から…」


雨宿りに丁度良い蔵に隠れて…

そこから見えた小さな小さな空は



灰色だった




「……おかしいな。姫君との思い出で忘れる事なんてないはずなんだけど。」


悩むヒノエ君の姿を見て気付いたんだ


「あ…そっか……この時空じゃないんだ。」


と、季節は、紅葉の燃ゆる…秋だったもの


「……。」

「い、今のは忘れて。何でもない―――!?」


突然、視界が緋色になる

言葉を紡いでいた唇は塞がれてしまった

苦しいのに嫌じゃない


「ふ…ぁ」


長い長い…時が止まったかのような口付けからようやく解放されて

高揚した顔で貴方を見つめるの…


「ちゃんと教えて?」

「…私は今のヒノエ君がいれば…生きていてさえくれればそれでいいの。」

「答えになっていないよ。望美。」



貴方のために流した涙は

一生癒えない傷跡にひどく凍みた

私の時空も心もでさえも

もう


貴方の生だけが私の生きる糧

2度と失いたくなんてない




貴方がこんなにも愛しいから



「私は1度死んで、貴方の生で生き返った。だから枯れていた涙は溢れ出たの。」

「望美…」

「お願い…もう消えないで。ずっとずっと一緒に居て…」

「大丈夫だよ。ずっと…一緒だね?」




凍みた心に灯りが燈る

消えない傷は治癒を始める

あの時空で貴方と見た灰色の空には

今現在、天より祝福の光が射していた

きらりきらり、と




雨はもう降らないよ…





END


2006.09



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