金魚と言えばお祭りで
「あっ!将臣君!!」
「どうした、望美?」
「金魚掬いやろうよ!」
【金魚と言えばお祭りで】
只今、夏真っ盛り。
アスファルトの照り返しで、気温30℃を優に越える本日の天候。
そんな暑い日にも関わらず、市主催の夏祭りに浴衣姿で望美と将臣は居た。
そして、金魚掬いの前で足を止めている..
「ああ、いいぜ。」
将臣は暑苦しくもやる気を見せて、あっさりと承諾した。
その返事に望美はニヤリと笑う..
勿論、将臣は気付かない。
屋台のおじさんからポイを受け取ると
「じゃぁ折角だから、どっちが1ポイで何匹掬えるか勝負ね!」
と言った。
「ったく、子供みてぇだなぁ。」
悪気なく、変わらない幼なじみの言動に笑う。
カチン
刹那、望美から何かの音が聞こえ、策士弁慶にも似た黒いオーラを僅かながら発していた。
「将臣君..負けるのが恐いんでしょ?」
ちょっと挑発じみた言葉を投げ掛けるも、当の将臣はサラリと流して..
「んな訳ねぇだろ!1匹ゲット〜」
と..開始の合図も無いのに始めていた。
そのうえ、先手必勝!!と言わんばかりに次々に掬っていく。
「あっ!ずるい!!私は..やったー3匹同時に取れたー!」
「マジか!?」
3匹同時というプロ顔負けの荒業に、やや焦りを感じる将臣。
妙に真剣になっている将臣を尻目に、望美のお椀は金魚でいっぱいになった。
「ふふ〜んだ。負けたら屋台おごりだからね!」
「聞いてないっての!」
将臣の怒声の隙によりポイは破け、この全くと言っていいほど、大人げ無い金魚掬い勝負は幕を閉じた。
***
「将臣君、次りんご飴買ったら金魚置きに帰ろう」
と..結局勝者は望美となり、将臣はすっかりパシられていた。
「はいはい..」
傍目から見ると、彼女の買い物に付き合って、恐怖の荷物持ちをさせられている彼氏のようである。
しかしながら、にこにこと満足そうに先導を切って歩く望美の背中を追いながら、将臣も優しく微笑む。
「将臣君はやくー!」
数歩前を行く望美は長い紫苑の髪を靡かせて手を振った。
***
「ただいまー」
まるで自分の家に帰ってきたかのような感覚で、望美は有川家へと上がり込む。
そのあとに荷物を持った将臣が続くと…
声を聞いていたのか、将臣の弟、譲がキッチンから顔を出す。
「先輩、兄さんお帰りって!その金魚、一体どうしたんだ!?」
普通の神経をした人ならば、当然驚くであろう…望美と将臣の手に持たれた金魚の入った袋の数に。
しかも1袋に平均して4匹入っているから、約20匹前後の赤や白や黒い色金魚が居る事になる。
「あーそのな..まぁ、あれだ。」
譲の指摘を受けた将臣は両手の金魚を見、苦笑し、言葉を濁した。
持ってきてしまったものは仕方がない…という感じに深く溜息を吐く譲。
「それじゃぁ解らないだろ..全く、その様子だと金魚掬い勝負でもしたんだろう。」
「流石譲君!」
望美に感心されて照れるものの、昔から縁日に行くたびに何かしら勝負をしていた2人を思い出し、感慨にふける。
しかも毎年望美が負けて、悔しがっていたような…
「それぐらい解りますよ。いかにも兄さんが好きそうだしな。」
「そこで振るか!?」
「はぁーこんなことなら俺も付いて行った方が良かったな。」
と、大量の金魚を見て思う譲であった..
***
「夕飯ご馳走様でした♪ごめんね御飯まで頂いちゃって…」
あれから、掬ってきた大量の金魚たちを入れておくバケツや槽を探して、日も完全に落ちてしまった。
望美の両親が留守だと言うこともあり、有川家と共に夕飯を頂いたのだ。
「いいえ、先輩今日1人だったでしょう?だから丁度良かったんです。」
「まぁ、望美に包丁持たすのも危ねぇからな。」
謝る望美に優しい言葉を掛ける譲と、からかい半分の将臣。
「ちょっと将臣君!どういう意味よ!!」
「言った通りの意味だけどな?」
「ほらほら、喧嘩はやめて。おやすみなさい。」
相変わらずな2人の口喧嘩に手馴れた様子で仲裁をする譲…なんともバランスのとれた幼馴染だ。
「うん。おやすみ!」
そう言ってにこっと笑うと、望美は闇に消えていった。
***
「はぁー1人…かぁ。」
家路までわずか1分ともかからない道のりを望美はとぼとぼと歩く。
外套のない闇夜は月明かりしか頼るものがなく、心なしか不安な気持ちになる。
小さ目のバッグから鍵を取り出し、ガチャっとドアを開けると、後ろから呼ぶ声が聞こえた。
「望美!!」
振り返れば走ってきた様子の将臣が直ぐ目の前に居て、望美は驚いたように目を見開く。
「将臣君!?どうしたの?」
「送りに来た。」
おそらく家に入ってから直ぐに掛け付けてくれたのだろう…はぁはぁと息も切れ切れに将臣は言葉を紡ぐ。
その言葉に首を傾げる望美。
「送りにって家隣だよ?」
「そうだけどな…心配だからさ。」
お前、意外と寂しがりやだろ?…心底、心配してますという顔つきの将臣に、不謹慎でも望美は嬉しくてポツリと呟いた。
「変なの…」
「変なのは百も承知。手、出してみ?」
素直に手を差し出すと、指に当たる金属質…暗くてよく見えないが、
「指輪?」
望美の目と同じ色の綺麗な翡翠色の石が付いていた。
ガラじゃねぇなって照れながら頭を掻く。
「今日の祭りでさ、お前が好きそうだったからな。ま、安物で悪いんだけど…」
言いかけて将臣は言葉を失った。
「うれしい…」
望美が凄く幸せそうに微笑んだから。
それが綺麗で可愛くて
愛しい。
「そ、か・・よかった。」
「うん。」
本当に幸せそうな望美の頭を照れながら撫でる将臣。
「そうだ将臣君。明日暇?」
思いついたように望美は言う。
「あぁ。」
「金魚鉢買いに行かない?」
将臣は思考を一巡してから、
「OK!んじゃ、明日な…望美。」
了承ついでのkissを望美の頬に送った。
END☆
おまけ↓
翌日、将臣と望美はペットショップに居た。
うーん…と悩む望美に
「なぁ…なんで金魚掬いあんなに強かったんだ?」
ふとした疑問を投げ掛ける。
「んー?あぁ、あれはね『金魚掬いの達人が初心者でもこれで達人!?』みたいな企画のテレビを見たの。」
「せこいぞ?!」
驚く将臣にニヤリと笑いかけ…
「違うよ。下調べ。」
「望美、お前…根に持ってんのか?俺に負け続けてきたこと…」
ハっとして口を塞いでも時既に遅し!
望美からは弁慶に似たオーラが出ていた。
「……。」
それから暫くは気まずい沈黙が続いたとか(将臣談)
2006.08
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