[携帯モード] [URL送信]
怖夢×幸夢
眠るのが怖いと言ったら、貴方はどんな顔をするのかな...




【怖夢×幸夢】






キシ
キシ
床板の軋む音がする。


こっちに近付いて来る..


こんな時間に誰だろう…?

振り返ろうとして、声が聞こえた。




「こんな夜中に何をしているんだ?」


少々呆れたように、挑戦的に言うのは九郎さんで、何だか安心した。

九郎さんこそと聞けば、ちょっとだけ怒ったように


「お前が心配だったんだ。」



って..


びっくりした。


私は九郎さんに何か心配かけるような事したのかな...?

考え込んだ私を見て九郎さんは言った。


最近元気が無かった、と。
少し照れ臭そうに..



「えと、ありがとうございます。」


自然と出た御礼の言葉。

何故だかとても嬉しくて、笑顔になるの。
あなたには不思議の力があるみたい。


暫くの間、静かな沈黙。


立っていた九郎さんは私の隣に腰掛けた。


「それで、どうしたんだ?」

「あのね九郎さん。私、眠れ無かったんです。」


脳裏に浮かぶ炎の記憶。
皆を

あなたを



『助けたいよ..』



ずっと願って、ずっと見てきた悪夢。

私が背負ってきた時空はこんなにも重くて、今もあなたの顔をまともに見れないの。


無くしたくない笑顔がそこにあるから。


「怖くて。」


言うと同時に涙が零れて、どうしようもなくて..
肩を震わす私を九郎さんは抱きしめてくれた。


強いのに優しげで
ぎこちなさが愛しくて


「九郎さん・・・暖かい..」


此処にある温もりを確かめるように呟く。
満たされてるから、不安なの。

無くす恐怖を知ってる私は。





急に力強く肩を押された。


「馬鹿、どうして俺に言わなかったんだ!」


返って来た言葉は私の予想外。
どうしてあなたが怒るの?

それでもあなたが辛そうな顔をするから、私は謝ってしまう。


「ごめんなさい。」


どうして良いかわからなそうに、視線を空に泳がす九郎さん。

私、あなたを困らせてばかりですね。



「−−っ!...望美、空を見ろ。」


言われた先を見れば、濃紺の空に白々と輝く大きな満月がひとつ。

暫く釘付けになって見ていると、視線を感じて振り返る。



オレンジにも似た茶色い瞳とぶつかった。


「俺はお前の不安の理由が解らない。だが、もしまた怖くて眠れない夜があったのなら、俺に教えてくれ..」

「九郎、さん?」


「一晩中、一緒に起きていてやるから。」



真剣な眼差しにまた涙が流れた。

九郎さんは泣くなって困ったように言っていたけど、止められなかった。

だって、向けられた目は真っ直ぐで、握られた手は暖かかったから。

不安はあなたに溶かされて、全部空に消えてしまったの。

だからね、きっと..怖くて眠れない夜なんてもう来ないよ。


それでも満月の夜にはあなたと一緒に居たい。




「私..九郎さんが好きです。」


あなたは目を見開き驚いて、顔を真っ赤にしながら抱きしめてくれた。


「俺もだ..望美。」


ぼそりと耳元で紡がれた言葉。
ずっと欲しくて、ずっと待ってた。

だから私、凄く幸福です。



そう想いながら目を閉じ、やんわりと抱きしめ返した。



END


2006.04



あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!