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修羅の狭間の甘い至福
今は春。

桜の花がちらほらと咲き始める季節である。
そんな和やかな陽気のさなか、望美は大声をあげていた。

あの人を捜すために...




「知盛!とーもーもーりー!!」


名前を連呼しながら、昼寝をしやすそうな木陰等を重点的に見て廻る。

暫くすると、気怠そうに上体を起こして、素っ気なく振り返る..
その顔はあからさまに不機嫌で...どう見ても知盛だ。


「煩い...何の用、だ。」

「何の用だ、じゃないよ!どうして来てくれなかったの?約束したのに...」


望美の:約束:と云う言葉の意味が理解出来ない様子の知盛は、思考を巡らせながら紫苑の瞳を細めた。
そして、ふと気が付いたかのように望美の翡翠の目を捉えて言う。


「あぁ...忘れていた。」



悪びれたそ振りもなく...


「忘れたって酷いでしょ!」


平然と言ってのける知盛に腹が立ったのか、望美はきっ、と睨み付ける。
しかし、その行動は逆効果だったようで..


「好戦的なのは嫌いじゃ無いぜ?」

と刀に手をのばす。
が、望美の表情が強張ったのを見て、やめた。


「まぁ、そう熱り立つなよ..どうせ、重衡と行ったのだろう...?」

「....知盛と行きたかったのに。」

望美はボソリと呟く。


「何か?」



決して聞こえない訳ではないのに、聞こえ無い振りをする知盛に再び腹が立って


「何でもないっ!!」

と、本日幾度目かの怒声を上げた。

「知盛のばか...もう知らないんだから!」

これみよがしに叫びたいだけ叫ぶ望美。

ふっ、と視界が暗くなったと思えば、怒りの張本人が後ろに立っていた。


「クッ..馬鹿とは、随分な言われ様だな、神子殿?」

「と、知盛!?何で此処に..」


まさか追い掛けて来るとは微塵も思ってなかった望美は目を丸くする。
一方知盛はそんな望美の顔を見、胸中を察知したのか、軽く溜息をついた。


「お前の行く場所ぐらい想像はつくさ。余り..俺を嘗めて貰っては困る、な..」

「別に、嘗めてる訳じゃないよ。」


「全く、神子殿は手がかかる。」

「む、どうせ子供ですよ!」


口を尖らせて、頬を膨らまし、抗議する姿はまるで子供だが、どうやら知盛は別に思う所が在るようだ。


「そういう意味ではないんだが、な..」

「じゃぁ、どういう意味?」


「知りたい..のか?」

「うん。」


焦らす知盛に痺れを切らして先を促す。
すると知盛はゆっくりと口を開く。


「...お前は、話しの途中で踵を返し、何処かへ行く。いつもだ..」


いかにも面倒そうに言うものだから、つい声を張り上げてしまう。

「それは知盛が!!」

「まぁ、聞けよ...だから俺が捜しに行かねばならぬだろう?」

「捜しに来なくたっていいよ。」


ふん、と向こうを向く望美は明らかに知盛のペースに嵌まっていて..
それを確信した知盛は口角を上げた笑みを浮かべ、続ける。



「つれない、な。だが、お前は..俺にしか見付けられない...違うか?」


そう問う知盛を訝し気に思いながらも、望美は思案を巡らせた。

そして一つの答えを見付けた。



「...あ!」

「どうした?」

「悔しいけど、いつも知盛なんだもの。」

「何故だと、思う?」

「それは知盛が見付けられる所に隠れてるから..って//」


望美は最後まで言わない内にはたと気が付き止めた。
...が、時既に遅し。


「中々、可愛い事を言ってくれるじゃないか。」

満足そうに笑む知盛。
望美は知盛の思惑通りに誘導尋問に嵌まってしまって、悔しさと恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまう。


「〜//知盛のばかぁ!!」

「そんな朱い顔で睨まれても、説得力に欠けるぜ?」


そんな事を言いながらも、左手は腰・右手は顎に添えられて...





気が付いた時には唇が重なっていた。






「お前はもう俺のモノだ。望美…」



囁かれた言の葉はずっとずっと待っていた..







【修羅の狭間の甘い至福】





end


2006.3



おまけ

〜削り取られた物語〜



「そんな朱い顔で睨まれても、説得力に欠けるぜ?」>>>




「だって、知盛が好きなんだから...仕方無いじゃない。」


何だか好きだと云う気持ちをからかわれたような気がしてならなくて、望美は不安を感じ俯く。


「だから今日だって、お花見行こうって誘ったのに...解ってるよ?知盛が面倒臭がりな事。でも、でもね」


どうしても一緒に行きたかったと呟く望美。

そんな様子を知盛は窺い知り


「悪かった。」

と、ちゃんと望美の目を見て言った。
余りにも素直過ぎる発言に望美の思考回路は一時停止してしまう。


「え?」

「悪かった、と言っている。」



「知盛は私の事好き?」

「あぁ。」

「本当に?」

「全く..俺の神子殿はうたぐり深いな。」

「だって..」


疑問の言葉を紡ぐ前に、知盛に唇を掻っ攫われた。


「とも、もりっ//」

途端に望美の頬を朱が走る。
重なる熱い唇は頭が痺れるくらい、

優しげで甘くて


「クッ、言葉では神子殿はわからぬ御様子でしたので...」


でもその時の知盛の表情が妖艶だった事は、望美には知る由もありません。



「それで、重衡との逢瀬は如何、で?」

「はい?」


突然聞くものだから、間の抜けた声を出してしまった。


「お前は俺のモノだと云う事だ。」


私を抱き寄せる知盛の顔は不機嫌と真剣が混じりあっていて

「知盛、ひょっとしてヤキモチ?」

「.....。」


独占欲の強い彼にどう対処すべきかと、私は溜息をついた。




あきゅろす。
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