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願わくは星の下にて
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「え〜っ!?ちょっとちょっと、二人とも、大丈夫!?」



今の衝撃で、吉野の眠気は吹っ飛んだ。

吉野の横では、長谷部が珍しく慌てた声をあげている。

突然の事に、状況が把握出来ずしばらく呆然としていた吉野だったが、すぐに、寝ぼけてふらついた自分が、後ろにいた人物に衝突したのだと気が付いた。



「――…いったー…」



そのくぐもった声に、吉野は固まっていた身体を解いて、急いで振り返る。



「おいおい、何かすげー音したけど、大丈夫か?」

「今のは完全に鼻に入ったな」



心配そうな言葉のわりに、若干笑いを含んでいる様子の横山と三嶋に、片手で鼻と口元を覆った皆川が、鋭い視線を向けていた。



「…お前ら…これ結構、本気で痛かったんだけど…」


「……!……っ!!」



どうやら、自分が頭突きを食らわせた相手は、皆川だったらしい。

吉野は声も出せず、慌てふためいた。

そんな吉野を、横山と長谷部が笑いながらなだめる。


「大丈夫、大丈夫。成司は頑丈だから!」

「そうそう。吉野の方こそ、今ふらついたみたいだったけど、大丈夫?」


「…何だよ、この扱いの差は…」


文句を言う皆川に、三嶋が「ドンマイ」と目で告げる。

何とも言えない表情を浮かべていた皆川は、次の瞬間「あ、やべ、鼻血出そ…」と呟いた。

すると、彼が鼻を覆っていた手の指間から、瞬く間に血が溢れ出す。


「おぉー、ぶつかり合った末に鼻血とは!青春してるね〜!」


そんな横山の軽口も耳に入らないほど焦った吉野は、自分の持っていたタオルを、皆川の手元に押し付けた。


「…ちょっ、禾倉、俺自分のタオルあるから!」


皆川の抵抗も聞かず、吉野はタオルから手を離さなかった。


「あ〜、鼻血はかなり勢いよく出るから、すぐには止まらないかもな」


三嶋の言葉の通り、吉野のタオルはみるみるうちに赤く染まっていく。

その様子に、吉野はますます顔を青くさせた。


「……ど、どうしよう、ほ…、ほけ、ほけんしつ…!」


やっと出した吉野の声は、かすれて震えたものだった。


「いやいや、鼻血なんかで保健室行く必要ないって。大丈夫だから、…とりあえず離せ禾倉」

「で、でもでも、止まらないよ…!?ご、ごめんね、ごめん…っ、どうしよう…」


たかが鼻血と思っていた横山達は、吉野のあまりのうろたえように、ポカンとした。

被害者である皆川は冷静だったが、未だにタオルを離さない吉野をどうしたものかと、一番頼れそうな三嶋に助けを求める視線を送る。


「…まぁ…こんな血塗れのタオルぶらさげて教室に戻られてもアレだし、落ち着くまで保健室で休めば?」


三嶋の発言に、長谷部も賛成した。


「ここからなら、教室より保健室の方が近いしね。それがいいんじゃない?」

「え〜!ずるい、俺も保健室で休みたい!」

「そうね。嗣人も一回、頭を診てもらった方がいいかもしれないわね」

「だろー?…って、おいコラ!どういう意味だよ!」


通常運転に戻った長谷部と横山の会話の横で、吉野も「その方がいい」という気持ちを込めて皆川を見る。


痛みからなのか、この状況に対してなのか、顔を顰めた皆川は、深いため息をついた。


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あきゅろす。
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