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鬼のたばかり




 ほのかに揺れる燭台の炎が、情事のそれを生々しくあらわしていた。荒い息が絶え絶えに響く。男は口も聞けぬというのに、必死にもがいていた。
「謀ったな……義長」
「これは和平のため。鬼定殿も気づいておられよう。謀ったものが本当は誰なのかを」
「幸秀はそそのかされたのだ!」
「まだそのようなことを」
 義長が鬼定の足に手を這わせると、鬼定はその大きな体躯を揺らした。言葉など無意味だとでもいうように、義長はただ無言を貫いた。鬼定の罵声などものともせずに、ただ、鬼定をなぶる。自由を奪われた鬼定は、思うように抵抗ができない。鬼定が鋭く睨めども、義長は一切の動揺を見せない。鬼定の額やら身体には、焦りの汗がにじんでいた。
 義長が鬼定のある箇所に触れると、鬼定はいっそう強い抵抗をみせた。次第に色を失っていく表情に、義長は小さく笑む。それはやけにあどけなく、まるで、欲しいものを手に入れた幼子のようだった。鬼定の抵抗が僅かばかり強まったところで、その程度はたかが知れている。義長は躊躇すらせずに、鬼定の中へと指を進めた。
「ぐっ……」
「おや、鬼定殿。いかがいたした」
 鬼定の身体はこわばっていた。いくら鬼定といえども、衆道の契りは幾度か交わしたことがある。だが、決して受け身となることなどはなかった。位と体躯がそうさせていた。鬼定の、何をも受け入れたことのないそこに、義長は次々と指を増やす。屈辱に歯を食いしばる鬼定とは対照的に、義長は満悦の笑みを絶やさない。そんな義長の様子に、鬼定は何故か背中が寒くなるのを覚えた。
「屈辱だとて舌を噛み切ることもならぬ辛さは、いかほどですかな」
「おのれ……」
「鬼定殿を差し出したのは他ならぬ幸秀殿に相違ないが……それでも幸秀殿を信じると申されるか」
 鬼定は義長の問いに答えない。無言は肯定であるとでもいうかのように、義長は小さく頷いた。
 義長が自身のそれを鬼定へとあてがうと、鬼定は刹那に目を泳がせた。そのような鬼定の様子を確認すると、義長はゆっくりと腰を押し進める。小さくもれるうめき声に、義長は意地悪く微笑んだ。名があらわすように、鬼と恐れられる鬼定を組み敷いている支配感。そして何より、鬼定の苦悶の表情は、義長を昂ぶらせた。
 次第に快楽の色を見せ始める鬼定が、義長にはおかしくてしようがなかった。天下人とも言われている鬼定が、鬼の身体が、色をつけ、小さく震えている。義長はいっそう強く腰を進めながら、鬼定へと囁いた。
「好き者ですなあ」
 瞬時に、かっと目を見開く鬼定だったが、義長がひと突きすれば、そのまぶたは閉じられた。薄く開けられた鬼定の目の先は、すでに焦点を結んでいない。荒々しく息を吐き出しては、ときおり小さく、野太い声を発する。互いに限界がきていた。義長が最後に腰を打ちつけると、鬼定は白濁を吐きだした。

「鬼定殿、これからはこの牢が暮らしの砦となりましょう」
「……義長、幸秀は本当に我を……」
「いっそ連れて参りましょうぞ」
「よい……もうよい。何をも言うな」
 空を見る鬼定の目からは、ひとつ、涙が落ちた。義長は鬼定の頬に触れ、慈愛の目で鬼定を見た。
「鬼の目にも涙ですな」

 すべては義長の思惑通りにことが進んだ。幸秀が主君を慕っていることは、誰の目にも明らかだった。欺き、下剋上を謀ることなど、幸秀にできるはずがなかった。義長は小さく笑みを浮かべると、愛しそうに鬼定の髪をすいた。




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