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私の愛する人




 彼女は、頬を赤く染め、恥らいながら、私の言うとおりのことをする。まるで傀儡のようだと、私は彼女に嘲笑した。
「ねえ、桃子さん。今日、翔に何て言って出てきたの?」
「……翔とは、あまり話さないから……」
「ふうん。ねえ、翔は怪しんだりしなかったの?」
「……わからないわ」
 翔が、訝しがらないわけがない。いつも外に出ない彼女が外に出るなど、相当の理由がなくてはありえないからだ。しかし、彼がその理由を知ることはないだろう。
 彼女はおずおずと手を伸ばした。私はあえて彼女から遠ざかる。彼女は一瞬の戸惑いを見せたあと、遠慮がちに、ゆっくりとまた私に近づいた。触れるか触れないかの位置にまで彼女が近づくと、私はまるで本能を抑えられない発情期の動物のように、彼女の手を引き、彼女を押し倒した。
 小さく愛らしい目を丸くして、彼女は私をその瞳に映す。今、彼女には私しか見えていないのだと思えば、妙な高ぶりが、私を襲った。これが――独占欲というものなのだろう。彼女を私だけのものにしたい。誰の目にも触れさせたくはない。私だけが彼女に触れ、愛することができるのだと。
「桃子さん、私のこと、好き?」
 彼女は私から目を逸らし、小さく頷いた。
「ねえ、私のこと見て。そして好きだと言って」
 彼女の、情欲に濡れた目が、私を捉える。
「奈々ちゃんが……好き」
 背中に、電撃が走る。今までに感じ得たことのない高揚感が私を襲う。私だけの、私だけを見る、可愛い可愛い愛しい人。
 貪るように彼女の口に噛みつく。慣れた舌は淫らに絡み、彼女は時おり、悩ましげに吐息をもらす。それすら逃したくなくて、私は必死に彼女の唇に追いすがった。彼女の不規則に揺れる肩を、私だけが知っているのだ。
「翔に悪いと思わない?」
 少し口を離し、意地悪く彼女に問いかける。彼女はひどく傷ついたような表情で、答えに悩んでいた。
「ふふ。いいの、桃子さん。ちょっと意地が悪かったかもね。私が愛しているのは誰か、あなたが一番よく分かっているんでしょ?」
 眉を八の字に曲げながら、彼女は困惑したかのように頬を赤らめる。ずるい人。悪いことだと分かっていて止められない。でも、そうなるように仕向けたのは私に相違ないのだから、私も相当たちが悪い。背徳にまみれたこの行為に、少なからず感情が伴っているあたり、私たち二人が共に罪の底にあることは、彼女も私も自覚している。
 彼女が求めるように私の口にすがりつく。私はそれに答えるように、彼女の中に侵入した。様々な感情が入り乱れ、彼女の頬には幾数もの涙の筋ができていた。それでも、私を求めずにはいられない。そんな彼女が、私はひどく愛しかった。
「私、だめな姉ね。ごめんなさい、ごめんなさい……」
「翔のことなんて考えないで。桃子さん、私だけを見て」
 彼女は目を伏せ、押し黙る。口では謝っていても、彼女の中には私しかいないことを、私はよく知っている。彼女の弱々しくも強く主張する、欲望に忠実な瞳が、それを如実に物語っていた。
 彼女の白く太めな肢体。柔らかく、肌触りがいい、肢体。足に手を這わせれば、彼女は恥ずかしげに顔を隠す。漏れる吐息と小さな声が、私を余計に煽った。
 私だけを映す瞳。柔らかな身体。慎ましくも卑屈な彼女。――彼女を絶対に離しはしないと、私は、心に決めたのだった。




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