口先の裃
「「Trick or Treat!」」
「ハッピーハロウィーン。二人とも」
研究室に小さな吸血鬼と魔女がやって来ました。
「随分と集めたね」
「今年は大収穫でした!ですよね?レミさん」
「ええ、今までで一番の収穫よ」
小さな吸血鬼と魔女こと、ルークとレミは先程収穫したお菓子を片手にレイトンに出された紅茶を飲みながらワイワイ盛り上がっていた。
レイトンはその光景を好ましく思いながら二人に話す。
「私も子供の頃はよく町中を歩いたよ」
「教授は何に仮装したんですか?」
「そうだな…17の時はフランケンシュタインに仮装したよ。その時が一番の収穫だったかな」
「どのくらいだったんですか?」
興味津々に聞いてくる二人に苦笑しながらも答えた。
「少なくとも君達以上は集めたかな」
「そうなんですか!?」
「当時の親友がどちらが多く集められるか勝負しようと言ってね。私も負けられなかったんだ」
若気の至りだと言いながらレイトンは紅茶を一口飲んだ。
「そういえばハロウィンを祝うようになったのは何故か知ってるかい?」
「え、知らないです」
「私も知りません」
「じゃあ、せっかくだから話そうか」
お菓子をつまみながらレイトンの特別授業は始まった。
「ハロウィンとはヨーロッパを起源とする行事で、カトリックの書聖人の日の前の夜の10月31日にカボチャをくり抜いた中に蝋燭を立てて家の前に置き、魔女やお化けに仮装した子供たちが”トリック・オア・トリート”って唱えて町中の家を訪ねるのは君達もやってるから知ってるよね?」
「はい、知っています」
「うん。そもそも、ハロウィンの起源は古代ケルト民族から始まったんだ。彼らの1年の終わりは10月31日と定められ、この夜には死者の霊が親族を訪ねたり、悪霊が降りて作物を荒らすと信じられていた。そこから、秋の収穫を祝い悪霊を追い出す祭りが行われるようになって、さっきも言ったようにキリスト教に取り入れられて、現在のハロウィンの行事になったんだ」
一通り説明し終わりレイトンはカップに入った最後の紅茶を飲み干した。
「へぇ、初めて知りました」
「僕もです。ケルト民族から始まったなんて驚きです」
「彼らの文化は自然崇拝による多神教だったから、そのようなお祭りが行われたんだろう」
「なるほど自然災害は、昔の人にとっては悪霊ですものね」
そうだねとレイトンは言いふと時計を見る。
時間は結構遅かった。
いつもなら、女性と子供が出歩くには少し危険な時間帯だ。
でも、今日はハロウィン。
町中可愛らしいお化けたちがいるから、まだ帰れるだろう。
「もう、こんな時間になってしまったね」
「あ、本当ですね」
「そろそろ帰らないと父さん達が心配するかも」
小さな吸血鬼と魔女が慌ただしくお菓子を片付け初め帰る準備をしていると、レイトンは思い出したように言った。
「嗚呼、そういえばもうすぐ来るかも…」
「先生、誰が来るん「邪魔するぞ。レイトン」…で、デスコール」
ルークがレイトンの言葉を聞き直す間に入って来たのは、仮面を付けた男デスコールだった。
デスコールは遠慮も無しに窓から不法侵入すると、ルークとレミの存在に気がついた。
「ふむ、こちらもハロウィンを楽しんでいるようだな」
「楽しんでたら悪いんですか?」
レミは腰に手を当て強気に言った。
「悪いだなんて言っていないよ、お嬢さん。祭りを楽しむことは良い事だ」
その衣装もなかなか似合っているしねとデスコールは言うといつものあの不適な笑みをした。
レミは馬鹿にされた気分になり、隣に居るルークと目を合わせた。
アイコンタクトでデスコールに仕返しをする事にした。
「そうですか。だったら、デスコールさん…」
「…?」
「「Trick or Treat!」」
「な、!?」
突然の事で狼狽するデスコールにレイトンは心の中で笑った。
どうせ彼の事だ。
お菓子なんて持っていないだろう。
あの二人を適に回すと何気に怖いのだ。
「わ、私が持ち合わせしている訳がないだろ!」
「でしたら…」
「トリックですね」
「なっ、やめ…!」
レイトンは、三人に背を向けデスコールが入って来て開けっ放しにされた窓を静かに閉めた。
近所迷惑にならないためにね。
(覚悟しなさい!デスコール)
(僕たちのこちょこちょ攻撃を受けろ!)
可愛らしい攻撃だけど意外に威力は最強
END
20101031
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