くだらない物は排除
暖かい。一言で言うならこの単語が一番当て嵌まる。今まで感じた事のない温もり。
「やあ、デスコール」
一人のシルクハットを被った男が私に笑顔をむける。
「デスコールさんっ!」
「こんにちは」
青い帽子を被ったまだ幼さの残った顔の少年、黄色い服を着て美しい長い髪の女性。二人も私に気づき笑顔で手を振ってくる。
遠くから見ていた私は自然と足が彼等に向かって歩いていた。
温もりが欲しい、友が欲しい、愛が欲しい。
思いが募っていくにつれ早足になる。しかし、走っても走っても彼等に近づく事は出来ない。寧ろ段々離れて行ってしまう。
「ハァ、ハァ…何故だっ。何故行けない…っ!」
光りはどんどん遠ざかっていく。
「待ってくれ!」
ついには真っ暗。
「置いて行かないでくれ…」
走って走って走り続けた足はもう限界で、その場で倒れ込む様に座る。周りには何も無く闇だけが続く。自分の息遣いが耳に響く。
「エルシャール…!」
(愚かな奴。あそこにお前の場所などない)
突然聞こえた声。顔を上げて辺りを見渡しても誰も居ない。何も見えなかったのかもしれない。しかし、聞こえて来る元はすぐに解った。頭の中で聞こえているのだ。
「貴様、誰だ」
(それは自分で良く解っているはずだろう)
「貴様など知るか!私に構うな。あそこに行かせろっ」
本当は解っていた。あれが自分自身なのを。でも解りたくはなかった。解ってしまったら自分が消えてしまう。
(私は何の為にあそこに行ってたと思う。温もりが欲しい、友が欲しい、愛が欲しい?くだらないな。私は、そんなものが欲しいんじゃない。くだらない感情を持ったお前は不要だ。消えてしまえ)
「や、止めろっ!!」
「止めてくれっ…!!」「旦那様!」
「…っ、!」
気づくと自分の寝室。あれは夢だと気づく。執事が心配そうに私の顔を除く。
「旦那様、大丈夫ですか?」
汗を吸ったワイシャツが背中にへばり付いて気持ちが悪い。なかなか息が整わないし、喉がカラカラだ。
「…水を、頼む」
「畏まりました。すぐお持ちします」
執事は部屋を出ていった。誰もいない部屋で一人小さく笑う。
「まだ、くだらない心が居たか」
奴に近づく理由を少し忘れていたよ。
「エルシャール。私はお前の愛するモノ全てを…、(奪い取ってやるんだ)」
END
20100803
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