小さなウソの中に 「くわぁ…」 ここ数日の中で一番大きい欠伸をした大学教授が一人、自分の研究室に居た。 今の時刻は午前3時。 ガレッジ内は警備員と研究室にいるレイトン教授しか居ないだろう。 たった今、近々行われる学会に発表する論文を一通り書き終えたレイトンは、万年筆を机の上に放り投げ、また欠伸をした。 「だいぶ眠いようですな、英国紳士殿」 先程までレイトン以外誰も居なかったはずの研究室に、彼とは違う声の持ち主の男の声が静かに響いた。 レイトンにとっては聞きなれているこの声。 振り替えって入り口を見てみると、そこには仮面の男のデスコールが壁に寄りかかりながら立っていた。 レイトンさして驚きもせずに彼に答えた。 「まあ、寝てないしね」 「何日寝てないんだ」 4日ぐらいかなと苦笑しながら言ったレイトンは再び目線を机の上にある論文に戻した。 この論文を今日の午後6時までに提出しなければならないのだ。 「論文か?」 「うん、後スペル確認だけなんだ」 もう何度目かも分からない欠伸を片方の手の平で隠しながら、もう片方の手は紙を持つ。 欠伸のし過ぎて目に涙が溜まってしまってよく文字が見えない。 さっきの質問で自分が寝ていない日数を自覚すると余計に眠気が襲ってきたみたいだ。 しかし、ここまで来たなら早く全部終わらせてスッキリしたいのが本音だったので重い瞼を上げて目の前の文字に集中し始めることにした。 デスコールはというとその質問以降レイトンに話しかける様子はなくなり、ガチャガチャと研究室を物色し始めたようだった。 デスコールが何をやっているのかは見えないが多分音的に紅茶を飲む準備でもしているのだろう。 それと紙の音も聞こえたから、その辺に転がっている(と言うと何か語弊が生じるような気がするが事実、床に置いてあるので転がっていると言っておこう)本でもペラペラと眺めているのだろう。 それから十分もしない内にレイトンの傍に近寄って来て、机端の上に紅茶を置いてやった。 「ありがとう」 一言お礼を言って一口飲んだ。 紅茶を用意したデスコールはそのままソファーに座り本を読み始めたようだった。 自分が書いた論文を読みながら、一口また一口と飲んでいく内にどうにも文字が頭の中に入らなくなってきた。 瞼が先程よりももっと重くなりしまいにはコクコクと頭を上下してしまう始末。 嗚呼このままではダメだと思って頬を叩いて気合いを入れ直しても瞼はだんだんと閉じていってしまう。 参ったなとレイトンが思った瞬間、目の前がいきなり暗くなった。 「…え」 「レイトン、少し休んだ方が良い。そんな状況じゃミスがあっても見つからないぞ」 レイトンは一瞬何が起こったのか分からなかったが、直ぐにデスコールの手で目を覆われたのだと気づいた。 視界が真っ暗になると睡魔は余計に酷くなった。 「だけど、これだけ終わらせ…」 「駄目だ。寝ろ」 強い口調で言われ、それが合図とばかりに瞼は自然と閉じてしまった。 上下に揺れる肩と自分の手の平に感じる閉じられた瞼を確認すると、デスコールは静かに手を目からはなした。 「はぁ、他人の心配はやく癖して自分の心配しろ」 部屋の隅に置いてある毛布を持ってきてレイトンに掛けてやると、デスコールは机の上に投げ出されている彼の論文を手に取りソファーに戻った。 (小さな優しさ) 何時もは我慢できる睡魔 我慢できなかったのは誰のせい? END 睡眠薬を飲ませたのは彼だけの秘密 20120109 |