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意趣晴らし

居心地の悪い部屋。
部屋の持ち主が何故そう思うのだろうと考えたレイトンは、徹夜開けで多少頭の回転が悪くなった脳で解明した。
それはこれのせいだ。
人の部屋だというのに堂々とソファーを占領し身体を横にして行儀悪く足を組ながら小さな丸い机の上に乗せている、これのせいだ。
別にこれが居る事に関してはレイトンはもう何も突っ込まない事にしている。
とにかくこれが居るのは日常茶飯事だから、居心地が悪いとは思わなくなっていた。
確かに最初の頃は居心地は悪いとは思ったが…。
では何故居心地が悪いのか、それは単純だった。
これは今機嫌が悪いらしい。

「デスコール、机は足掛けじゃないよ」

レイトンが部屋に帰って彼が居る事に気づき、まず始めにかけた言葉。
ある時を除いては礼儀正しく紳士的な彼が人の部屋の机に足を乗せる事などないに等しい。
礼儀作法など彼なら心得ているはずだ。
ある時、それはレイトンには分かっていた。
彼は今機嫌が悪いのだ。

「……」
「デスコール」
「…チッ、」

手にしていた荷物を自分の作業机に置きもう一度名前を呼んだ。
帽子に耳当て、仮面にファーと何時も変わらない格好。
しかし、表情は何時もレイトンに見せる嫌味な笑みではなかった。
堅く口を結び若干への字になっている。
彼が機嫌が悪い証拠だ。
名前を呼んだレイトンに対しての反応は舌打ちだけだった。
その反応にレイトンは苦笑するしかない。
此処まで機嫌が悪いと口を聞いてくれないのは目に見えている。

仕方なく彼の足掛けになっている丸い机の上に乗っていた筈の紅い林檎が床に転がっていたので、腰を曲げて拾い自分が先程置いた荷物の上に置いとき紅茶を容れる事にした。
機嫌の悪い彼の視線を背後に感じながら、お湯を沸かし戸棚から茶葉を選んでいると、また部屋に響いた舌打ちの音。
レイトンは何が彼をこんなにも機嫌を悪くさせてるのだろうと悩んだ。
いくら英国紳士だと言ってもレイトンだって人間だ。
そう自分の前で増しては自分の部屋で機嫌悪く舌打ちされると、こちらまで気分が悪くなる。

出来た紅茶二人分を両手に多分飲んでくれないだろう彼に左手に持つ紅茶を差出ながら遂にレイトンは尋ねた。

「君は何故そんなに機嫌が悪いんだい?」
「……」

目の前に差し出された紅茶を無視し、仮面越しに無言でレイトンを睨む彼の口は相変わらずへの字だ。
暫く彼の口から何か言わないかと見ていたが、彼は無言を突き通すようだ。
レイトンは止める事の出来なかったため息を小さく小さくついた。
再び先程とは違い多少強い口調で彼の名前を呼ぶと、低い低い返事の声が聞こえた。

「…煩い。貴様には関係の無い事だろう」

もとより低い声の持ち主である彼が、機嫌が悪いせいで余計に低くなっていた。
普段は美しいとまでに思える彼の声だが、今日は低く低く怒りと苛立ちを含んだ声。
紅茶を受け取ってくれないと判断したレイトンは仕方なく目の前にある低い机に彼の分の紅茶を置き、自分は作業机の前にある椅子に腰掛け何時もより苦く感じる紅茶に口を付けた。
紅茶の苦味に多少眉間に皺を寄せたレイトンは、今だに紅茶に手を出す気にならない様子の彼に言った。

「関係なくは無いと思うけど」
「…何故?レイトン、貴様に伝える義理など無いはずだが?」

確かに伝えて貰う義理ではないかもしれないが、そこまで機嫌が悪くてこちらまで気分が悪くなっている状態で関係無いは無いだろう。
多少むっとしたレイトンは彼に言い返した。

「だとしても関係無くは無いだろう?話してくれないのならば、こちらまで気分が悪くなるから帰ってくれるかい」
「……」

英国紳士と名乗っているレイトンとしては大分心掛けない言葉なのは承知していた。
しかし、何時も美味しく感じる筈の紅茶が苦く感じてしまったのだからこれくらい許して欲しい。
英国紳士で紅茶を愛しているレイトンだって怒る時は怒るのだ。

彼は暫く無言だったが組んでいた脚を外し足掛けにしていた丸い机から脚をおろしソファーから立ち上がった。
本気で帰るらしい。
外してひじ掛けに置かれていたマントを羽織るとこつこつと扉に向かって歩きだした。
レイトンも無言で彼の去って行こうとする背中を見詰めていたが、マントを羽織る拍子に何かがレイトンの足元にひらひらと落ちて来た。
見てみると紙で何かがごちゃごちゃと書かれていた。
それは少しというか大分癖のある文字で、ただぱっと見ただけでは何も意味を示さない線に見えてしまうだろう文章やら数式やらが書かれていた。
内容はこれを書いた本人しか解らないだろう。
でも、レイトンはこれを書いた本人なら解っていた。

「デスコール」

去って行こうとする背中に投げ掛ける。

「進みたくても前から風が吹いて妨害されているのならば、風を利用してやればいい。帆を高く張って、風より速い風になればいい」

レイトンの言葉を聞いた彼は一度首だけ振り返り無表情の口元がにぃやりと笑った。

「…ふん、邪魔したな」

扉を開け廊下に出て行った彼は既に変装をしてるのだろうなと思いながらレイトンは、一口紅茶を飲んだ。
それは何時もと変わらない愛してる紅茶味だった。


END

人間たまには不機嫌な時もあるし喧嘩もするし行き詰まる時もある。

20110315



あきゅろす。
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