私の五分 5分、だったこれだけの時間でも、君といると幸せと感じるんだ−− 研究室に置かれているソファーに座りテーブルの上に置かれた文献を何と無く手に取り読んでいた彼は後ろから聞こえて来た言葉に一瞬戸惑った。 無視しようかと迷った彼は答える事にした。 その間違った考えを正すために。 「…相変わらず、意味のない事を言ってくれるな、レイトン。私と君は敵同士なのをお忘れか?」 「知ってるよ」 「なら、何故そんな事を言う?」 「だって、例え敵同士だとしても実際こうして同じ部屋でお茶を飲んでる」 「…何が言いたい」 「この日常が幸せだって言いたいんだよ、デスコール」 レイトンはデスコールの為に用意した紅茶を彼の前にあるテーブルに置きながら言った。 デスコールは目の前に置かれた紅茶に視線が行ったが直ぐに手元にある文献に戻した。 「フン、随分小さな幸せだな」 「例え小さな日常であろうと、その事が後に、大切な思い出になる。当たり前に思っている今が、何時無くなるのか誰にも分からない事だからね」 「……」 「だから、些細な日常。君と話す事、君とお茶を共にする事、君が存在する事。…この事が私には幸せを感じずにはいられないんだ」 デスコールはレイトンの考えている事に気づいたが何も言わなかった。 確かにこの世界に永遠とやらは存在しないのだ。 何時かは粉々に砕け散ってしまう。 だから、今起こる些細な日常を幸せに思う事はレイトンにとっては大事な事なのだろう。 しかし、彼は気づいていないあるいは気づかない振りをしているのか、その思い出こそが自分を苦しめている事を…。 後に哀れな男の幸せと感じた記憶に自分が入ると思うと実に笑える。 デスコールは、密かに笑みを浮かべながら自分に差し出された紅茶に手を伸ばした。 過去も未来も彼を苦しめさせるのはこの私… でも、何故だろうこの瞬間が壊れるのが恐ろしいと思うのは END 20110117 |