Dream
正気の雑貨(逆裁/女主/ゴドー)
ここの空は狭い。
鉄格子から射し込む光が白い部屋で反射して眩しい。
この黒い液体だけが俺の正気を繋ぐ。
『正気の雑貨』
「510番、面会です」
重い扉が開き、見慣れた看守が入ってきた。俺は簡易ベッドから立ち上がり、後に続いた。薄暗い廊下を抜け面会室の扉が開くと、世界が白く染まった。透明な壁の向こうに、毒を含んだ華がいた。
「久しぶりだな」
「何それ嫌味?」
「いや、ただの挨拶さ」
「私が無意味なことが嫌いだとわかっててやるのね」
今日はすこぶる機嫌が悪いようだ。…眉間のシワが3割増しだ。
「…ハァ。あ、そうそう。差し入れしたから、使ってね」
「毒物か?」
「首吊ってシネ」
そうだけ言って彼女は扉から去っていった。…怒らせたようだな。
「…では、これを」
部屋に戻り、差し出されたのはアイマスクだった。…これで首を吊るのは不可能だな。
──… 眠りから覚めた。まだ夜中なのに。そう、そこには丸く輝く月がいた。
「…俺には眩しすぎるぜ」
青白い光は部屋をなおいっそう白く、肌寒く感じた。そして、枕元のアイマスクの意味を理解した。…そう、彼女は無意味なことは嫌い。
「クッ…粋なことするじゃねぇか」
俺の正気を繋ぐものが増えた。
黒い液体と黒いアイマスクだ。
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