逆転(BL)
くもの向こう側(響王)
うっとうしい湿気が肌にまとわりつく。久しく事務所から休暇をいただいた。というより、成歩堂さんとみぬきちゃんに休めと言われたのだ。

(せっかくの休みで天気がこれだとなぁ)

どんよりと灰色が重く、空にのしかかる。曇りの日ほど熱中症に注意しましょう、なんてお天気お姉さんがのん気に話す。仕方がないので、法律の勉強を始めることにした。

(…発声練習はできないし)

ニュースからは相変わらず気が重くなるような話ばかりが流れ、どこもかしこも似ているような気がしてならない。蒸し暑さに耐えきれず、扇風機を回せば、なまぬい空気が流れる。

「…牙琉検事何してるかな」

テレビからまたお天気お姉さんの声がした。

『午後から晴れるでしょう』

梅雨の合間に広がる青空を想像した。綺麗な青と眩しい太陽に、なぜか牙琉検事を思い出した。けれど、窓ガラスの向こうの空は重苦しいままだった。

──…

牙琉検事は部屋のエアコンの除湿機能のボタンを押した。人工の乾いた空気が流れ出す。

「……はぁああ」

これで何回のため息だろうか、と牙琉は思った。深いため息の理由はわかっている。重苦しい天気と愛しい人への思いが今にも溢れそうなのだ。天気予報では午後から晴れる、と言っていた。

「…オデコくーん」

声が虚しく部屋に響いた。はぁあ、とまた響也はため息を吐いて、次の裁判の資料に目を通した。

胸に抱く、晴れ渡る青空に輝く太陽は、悲しくも愛しい人を思わせた。

──…

(…やっと仕事が終わった)

狭いエレベーターの中は息苦しさがさらに強まった気がして、無意識に深いため息が出た。開いた扉から人工の冷やされた空気が肺に侵食したが、出口は青空が広がっているような眩しさで、少し肺が軽くなった。

「…お疲れ様です」

受付嬢に声をかけると彼女は、お疲れ様です、と静かに答えた。自動ドアから出ると、雲の層は薄くなったけれど、じっとりとした重い空気が体を包み込んでいだ。



『くもの向こう側』
(晴れた眩しい空が恋しいのはきっとあの人に会いたいから)


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あきゅろす。
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