逆転(BL)
忘れ物はございませんか(ミツナル)
『お兄ちゃん、落とし物』
にこりと少年が笑った。手渡されたのは赤い鶴の折り紙だった。
『大切なものはちゃんと持ってね』
──…
夢から覚めると相変わらずの部屋で、そういえば、と嫌なことを思い出した。
(…御剣とケンカしたんだよな)
自己嫌悪と苛立ちが複雑になるけれど、それ以上に御剣のあの言葉は今でも消えない。
『…しばらく落ち着いたら互いに連絡を取ろう』
乾いたような返事が部屋に零れ落ちたのがわかった。何も出来ない非力な自分がとても恨めしく感じた。
それからだろうか、夢にあの少年が出てくるようになったのは。
顔は見ているけれど、思い出せない。笑ってるのはわかっているけれど、どんな顔で笑っているのかはわからない。
『大切なものはちゃんと持ってね』
それは紛れもなく自分に向けられた言葉だった。
けれど、
毎回しばらく歩いて、自分は何も持っていないことに気付く。
──…
ある晩、御剣から電話がかかってきた。酷く焦っている様子でもないけれど、何か妙な感じがした。
「…夢を、見たのだ。酷く妙な夢だ。少年に見覚えのないものを渡され、大切なものはしっかりと持っていろ、と言われる夢だ」
僕はただうん、と答えることしかできなかった。
「…すまなかった」
「…僕の方こそ悪かったよ」
それから数分会話をして、僕は眠りについた。
そしてまた、夢を見た。
──…
服の裾を引っ張られ、振り向くと、いつもの少年がいた。彼はニコッと笑いかけてくれたが、顔はわからない。
「君のおかげだね」
そう言うと視界は急に明るく開け、僕は驚いて目を覚ました。部屋は朝日が差し込み、窓から朝方の冷えた風が吹き込んでいる。
『大切なものはちゃんと持ったんだね』
そんな声がして、起き上がった僕の枕元には、使い慣れた携帯電話と
赤い鶴の折り紙が置いてあった。
『忘れ物はございませんか』
(大切なものは持ちました)
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