逆転(BL)
遠回しな約束をしよう(ミツナル)
前へ進め
振り返るな
頑張れ
と軽い音を立てて背中を押された。
あれから、御剣の脳内には、今にも泣きそうに笑う成歩堂の顔が離れていない。
─…そして夢を見るようになった。
涙をこらえ、御剣の名を別れた時と同じ顔で言う成歩堂が、霞むように消えるものだ。そして御剣はいつも、消える前に夢から飛び起きる。
「…ま、待てっ!!」
冷え込んでいる夜だというのに、身体は嫌な汗で濡れ、息は異常な程に荒い。
思わず御剣は近くの携帯を握りしめ、成歩堂に電話をかけてしまった。数コール後、懐かしい声が耳を触った。
『久しぶり、御剣』
「あ、あぁ、成歩堂か」
『珍しいね、君が昼に電話するなんて。そっちは真夜中だろ?』
「あぁ、嫌な、夢を見た」
受話器の向こうから冷たい沈黙が伝わってきた。
『DL6号事件、か?』
「いや、それよりも、もっと恐ろしいものだ」
御剣、と不安の色を持った愛しい人の声が、ゆっくりと御剣の身体を和らげていく。
「君が、いなくなることだ」
『御剣』
何事にも揺るがない強い声が、心の奥にあるものを熱くした。
『ここで、待ってる』
『遠回しな約束をしよう』
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