逆転(BL)
半分と半分(ミツナル)

「いい加減にしろよ、御剣」

温厚な彼が怒りの感情をあらわにした。スーツの襟を掴まれたが、射抜くような視線はどこか悲しげだった。

「さっきから何ふざけたこと言ってるんだ」

「いつ、私がふざけたと言うのだ」

「いつ?じゃあ、私と別れてくれだの、君と一緒にはいれないだの、証拠も根拠も無い発言をふざけたと言わないでなんて言うんだ」

「ここは法廷じゃない。理由を君に言う義務は私にはない」

「僕には聞く権利がある」

重い沈黙が2人を包んだ。
しばらくすると堪え兼ねた成歩堂が、突き飛ばすように襟を離し、その場にしゃがみ込んだ。直視できずに、御剣は顔を背けてしまった。

「…こんなのは茶番だ。一人の人間が人を拘束出来るはずがない」

「…なら、どうして、僕のことを好きだって言ったんだ。傍に居てほしい、とも。気の迷いじゃないんだろ?」

「当たり前だ!!」

痛いくらいの声が部屋に虚しく反響した。

「だったらどうして、」

「相応しくないのだ」

え、と小さな音がこぼれた。消えるほどの微かな声。

「私は君に相応しくない。ただ、それだけだ」

「ちがう」

確かな響きと信念を備えた声が、強い芯を持って御剣に伝わる。

「相応しいとか相応しくないとか、僕たちはそんな関係じゃない」

ゆっくりと立ち上がった成歩堂の両目は赤く潤んでいた。御剣の奥で何かが軋んだ。

「僕は君がいないと駄目なんだ。ただただ信じ抜くことしかできない」

「……私は信じ抜くことができない」

「違う。御剣は考えることが出来るんだ。僕より頭が良い」

今にも涙が溢れそうな両目には、成歩堂の真っ直ぐとした光が見えた。

「君がいるから、僕は安心することができる」

強く握り締めた拳が優しく包み込まれた。

「君は、僕が必要だと思ったから、傍に居てほしいと言ったんじゃないか?」

ぽたりと水滴が一瞬、光って消えた。どこかで息を飲む音がした。

「…成歩堂、すまない」

そっと引き寄せて抱き締める。ぎゅっと強く抱き返された。

「なんで、こんなこと忘れるんだ。僕より頭が良いくせに」

「信じ抜くことができないのだよ」

「うそつけ、こんなに僕の言葉信じてるくせに」

あぁ、と柔らかく頬が緩んだ。肩で鼻をすする音がした。



「君がとても愛しいからだよ」


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あきゅろす。
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