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『それはまさに』(黄火←緑)



雑踏の中、ちらりと見えた赤い色。

黒や茶、あっても金がいいところな日本人の典型の中に、一等目立つ色。
ああどこかで見た色だ、とその色に気を取られた一瞬後には、鮮やかな赤は目の前にあった。


眼前に居る相手はやはり見知った敵校の選手で、かつてのチームメイトの新たな『光』で。
奴はいつの間に近づいて来たのだろうと緑間は思ったが、よく見れば相手は先ほど居た場所から一歩も動いてなどおらず、近付いていたのは自分の方だった。





「…なんでオマエがココに居んだよ」


声を掛けられ、改めてはっと我に返る。
かち合った相手の目は見るからに訝しげな色に満ちていた。

何故だと?
―――そんなこと、こっちが訊きたいのだよ。

たまたま今日は休日で、町に買い物に出るのが占いで良いと言っていて、緑間はただそれを実行して。
その先で雑踏の中歩く火神を見つけて、彼がビルの入口で立ち止まったところまで見て、気付いたら近付いていた。

何故近付いた?…わからない。何も。


「……おは朝の占いで、獅子座の同性と一緒に居るのがいいと言っていたのだよ」


口をついて出たのは、言い訳じみた…しかし自分には十二分に理由となるもの。
だが占いを信じる者というは本当にごく僅かであって、火神もやはり例外でないらしく、他の者と同じ呆れたような顔になった。

おは朝の占いの凄さは自分のプレーですでに証明済みだと思うのだけれど、まだそれを理解する者は数少ない。


「はぁ?オレこれから黄瀬と待ち合わせなんだけど」

「………そうか」

「いやそうかじゃなくて、用事あるっつってんだ。どっか失せろよ」


火神の言い分を緑間は正論だと思った。
至極当然の理由だ、予定になく唐突に現れた他者の存在など邪魔でしかない。

それでも何故だか離れたくない、離れ難い何かが緑間を支配する。


「オレは運気を落としたくないのだよ。なに、別にお前達の邪魔などしない」

「そーいう問題じゃ…」

「そうそう、そーいう問題じゃないっスよ緑間っち!」


そろそろ火神の額に血管が浮き出ようかという時、すっと緑間の肩に他者の腕が回された。
緑間からその顔は見えなくとも、相手の声と独特の語尾と、中学の頃からあまり系統の変わらない、薄らと漂う香水の匂いですぐに判断が付く。


「黄瀬…」

「ごめんねかがみん、お待たせしたっス!」

「…別に、まだ時間前だろ」

「それでも待たしちゃったのには変わりねーっしょ。
 あとハイこれ、こないだ言ってた雑誌っス。これで勘弁!」


肩に腕を回したままの状態で火神に薄めの紙袋を渡し、そのまま黄瀬が顔の前でパンと手を合わせたものだから、緑間は黄瀬に思い切り引き寄せられるような体勢になった。
体勢的にも密着度的にも好ましくない形に、緑間の眉間に皺が寄る。

袋を受け取りつつも、薄らと火神の表情も曇ったように見えたのは気のせいだろうか。




「ねぇ緑間っちー」


火神はガサリと書店の袋を開けて中身を取り出しパラパラと眺めだす。
その注意が雑誌に向いている間に、黄瀬は緑間の耳に、火神には聞こえないような小声で囁くように呼んだ。


「今日のおは朝占い。…獅子座の同性は、運気降下の相性だったっスよね」

「………!」


ぼそりと続いた内容に緑間は目を見張る。

結果が良くも悪くも、誰も気休め程度にしか信じないが、緑間にとって絶対の占い。
それを全力で信じ実行するのが緑間であり、運気を上げるためになら多少の苦労も惜しまない。

その緑間が占いに逆らった行動をとった、その真意―――――…











「…大我はオレのスよ。だからさ、…あんまちょっかいかけないで?」


どくりと心臓が跳ね再び目を瞠った緑間。

肩にあった重みが消え、ばっと振り返った時はすでに黄瀬は離れていて、火神に抱きつく後ろ姿が見えた。
……不思議とぶんぶん振られるしっぽも見えた気がするが。


「かーがみん!緑間っち、獅子座の学校の友達ンとこ行くって!」

「はぁ…身近に居んなら最初からそっち行けよ。…黄瀬、さっさと行こうぜ」

「うーっス!」


火神は一瞥もなく、黄瀬はじゃーね緑間っち!と件のあだ名で手を振って。
休日の雑踏に紛れ消えていく二人を、緑間は呆然と見送る。

呆然としたのは今しがた知った事実のせいか、それとも緑間の奥底に眠っていた想いのせいか。
大体自覚と共に散るなど、一体いつの時代の少女漫画だ。




……想いの自覚など必要なかった。
その想い人が他の男の、それもかつてのチームメイトのものだなどと知りたくもなかった。


(己がバスケをする上で、こんな感情はただ邪魔でしかないのに…)





「……運気降下。やっぱりおは朝の占いはよく当たるのだよ」







『それはさに』

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

無用の長物、というもの。



end.

ちなみに運気上昇の相手は、双子座の同性。
失恋というか何というかの代わりに、緑間はおは朝占いを信じてるっぽい友人の存在を得ました。
別メニューだとかお出かけだとかでロードワーク行ってない日とか、黄瀬もちゃんと占い見てるといいな。

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