『It fuels. ver.1』(黄火)
押し倒されて視界が逆転する中で、ふと目が留まったのは彼のやわらかな耳朶を貫く金属。
金がかった茶髪の隙間に見え隠れする青。
細く見えた金具は、間近で見れば存外に太い。
(―――痛そうだな…)
いつ空けられたのかは知らないが、金具の通っている穴はとうに固まっていて。
そこに痛みなどもう無いとわかっているが、それでもやはり肉を貫通しているそれは、痛そうに見えた。
黄瀬に押さえつけられていない方の腕を持ち上げ、指先で耳朶ごとピアスを弄ぶ。
「…ねぇ、かがみん」
黄瀬の頭を引き寄せて自身の顔を近づけ、食むようにして唇ではさむ。
指で触れるよりもダイレクトに感じるやわらかな感触。
数度繰り返せばぴくりと反応する黄瀬が面白くて、ちゅ、とわざとらしくリップ音をたてる。
「………っ」
小さく漏れてしまった声に、黄瀬は自由になっている方の火神の腕もとり、やんわりと床に押さえつけた。
当然、悪戯に弄っていた耳元からは唇が離れる。
「……煽ってんの?」
「…さぁな」
馬乗りになって自分を見下ろす黄瀬の、どこか焦ったような声と笑み。
小さな悪戯の成功に火神は口端を持ち上げ、挑発するような笑みを黄瀬に返す。
煽ったつもりはないが、やられっぱなしではつまらないではないか。
何か仕返しのひとつでもしたくなるのが道理というものだ。
近づいてくる黄瀬の顔に、予想するまでもないこの先の展開を想像して、火神は自然に瞼を閉じた。
end.
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