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ドラゴン

とても穏やかに語るものだから、神父様がもうその問題を問題だと思っていないのでは?と感じた。
話したのも過去形だったし、カツラで隠しているのは自分の為ではなく、見苦しいと思う人の為だろうと思ったのだ。

「いやだなぁ、逆に僕のことを聞いてもらっちゃいましたね」
「すいません」

アレックスは申し訳なくて小さくなった。
けれどほんの少し話しただけなのに、神父様に人間味を感じ、親近感を抱いた。

「質問があるんです」
「どうぞ?」
「自殺はどの宗教でもよくないとされてますよね?自殺した魂は、やっぱり日の当たらない地獄へ行ってしまうんでしょうか?」

神父様は目を丸くしたが、深くは聞かず答えてくれた。

「確かに、せっかく与えられた命を自ら絶つのは、罪でしょうね」

神父様は虚空を見やり、静やかに語る。

「けれど僕は思うんです。太陽はすべての人に平等ではないのか?と」

アレックスは求めていた言葉を言われた気がして、神父様の横顔を見つめた。

「自殺してしまった魂は見捨てられてしまうのか。その罪は赦されないのか。それを思うと、僕はどうしても赦してあげたいと思ってしまう。……だけどね」

涼やかな声のトーンが下がり、微笑も消えてしまった。

「命を全うせず、途中で自ら捨ててしまうのは、命を軽んじていると思う。命は尊いものです。それでも、それを十分わかった上でその道を選ぶというのなら、それなりの理由と覚悟があるのでしょう」

うつむいたアレックスを一瞥し、神父は微笑を復活させたが、それは悲しげなものになった。

「僕には、そこまでは責められない。周りにいくら悲しむ人が居たとしても。どんなに止めたくてもね」

アレックスは神父に何か言いかけたが、躊躇してまた口を閉じた。
それを見て神父は彼の肩に触れ、優しく言った。

「僕でよければ、お話を聞かせてください」


告解室で、アレックスは罪を懺悔した。

「俺は、きっと家族に憎まれてるでしょう」
「何故?」
「それだけの事をしたんだと思います」

神父はその言葉に引っ掛かった。

「“だと思う”とは?」

自分の事なのに、他人事の様に言う。

「家族は恐らく、俺がとても酷い事をしたと思ってる」
「では貴方は、ご自分では酷い事をしたとは思っていない……?」

アレックスは少し間をおいた。

「俺は……家族を守りたかっただけです。だけど結果的にそうならなかった。だから、きっと憎まれてる」
「悪気が無かったのだと、ご家族に説明しなかったのですか?」
「いいんです。俺はいい息子でもなかったから」

無理に笑って失敗したアレックスは、涙を堪えてうつむいた。

「でも息子には違いない。ご家族は、貴方が消えてしまったら悲しむはずです」
「そうでしょうか?父親を殺した息子なんて、消えてもらった方が清々するでしょ?」

アレックスは緊張した。
あの綺麗な、汚いものを何も知らなさそうな神父様が聞いたら、どんな反応をするかと思ったのだ。
どんなに優しくしてくれても、殺人犯だとわかったら態度を変えるに違いない。
けれど、神父様の声色に乱れは窺えなかった。
どころか、罪を責める事すらしなかった。

「それで、今度は貴方までご家族から奪おうと言うんですか」

父親を殺したと言ったのに、神父様はそれよりもアレックス自身を心配してくれている。

「例えいい息子じゃなかったとしても、貴方という人間には替えがきかないんです。終わらせてしまったらそれまでです」

涼やかだった声が、熱く、力強く訴えていた。

「どうか諦めないで。貴方の思いを話してみましょう。赦してはもらえなくても、ご家族は貴方まで永遠に奪われる事を望まないはずです。だって、貴方はこうして毎日教会に通ってるじゃないですか」

初めて会ったのに、毎日来ている事を知られていたのかとアレックスはハッとした。

「お父様の死を悼み、自らの罪に心を痛めていたのでしょう?貴方は罪を懺悔できる人です。ご家族を守りたいと思える人です。僕がついてますから。どうか、ご自分に絶望しないで」

神父様の言う通り、アレックスは自分に絶望していたのかもしれない。
だから自分が汚名を被っても構わないと思ったのだ。

「神父様」
「はい」

アレックスは溢れた涙を拭った。
そして自らの罪を懺悔した。

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あきゅろす。
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