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ドラゴン

少年が突然現れたのは、薔薇科であるりんごの木の下。
記憶は無く、持ち物は貴重な宝石・ガルドストーンのみ。
それがどれほど大きな意味を持つか、当時のエスはわからなかった。
エスだけではない。
リュウも、何も理解していなかったのだ。

宝石に刻まれた一文字がその名の由来とはいえ、聖女エセルの名と似ている偶然さえ奇跡的な必然とされた。
聖女と同じ輝く水色の髪も、ガルドストーンが採掘される“神が棲む国”の住人の特徴だという。
水色の髪は、エルダイムではまずお目にかかれない。
紫の髪も同様だ。

“神が棲む国”は、大陸のどの国とも国交が無い謎に包まれた国で、きちんと地上に存在する国である。
随分前にエスとリュウはその国が自分達のルーツだと思ったが、国交が無く人の行き来もまともに許されてないので真実は未だ明かされるに至らない。

聖女エセルも謎が多く、彼女は“神が棲む国”ガルドの出身ではとされているが、女神ローズ同様その最期ははっきりしない。
信者達は「御子は父である神が居る天へ帰ったのだ」と言ったが、とっくに死んでいる事は確実なので間違ってはいない。

乱世に現れる救世主とも言われるこの聖なる存在は、たった今この世に、確かに生きている。
その聖なる光を纏い、彼女達の影を背負い、様々な異称で崇拝される人形。


女神ローズを描いた絵画では最も有名な一枚。
女神と言われていても、その姿は長い金髪の少女だ。
聖女エセルの彫像も、名前が無ければただの少女にしか見えない。

「さすが『聖女様』と呼ばれるだけあるな」

リュウは、隣でピエロの被り物をして危険人物扱いされているその人を見た。
長身でしっかりした骨格に筋肉のついたリュウに比べ、そのピエロは相変わらず色白で華奢なつくりをしている。
筋肉も薄く、推定とはいえ成人の男性にしては細い。

旅の途中で拾ってしまった子供達は、無邪気に賛同して笑った。

「本当に『聖女様』にそっくりなんだねぇ」
「そりゃあ『聖女様』と呼びたくもなるよね。我らが『御子』は麗しい美貌をお持ちだから」

彼らの言う聖女様そっくりの相貌は今はピエロのマスクに隠されている。
女神ローズと聖女エセルの作品がある有名な場所なので、顔を隠せと言われたのだが、逆に目立っている。
ちくりちくりとからかって遊ばれるピエロは、ぷいっとそっぽを向いて一人で行ってしまった。

「こら、ピエロ。一人で歩き回ると捕まるぞ」

後ろでゆるく一つに縛った深い紫の髪が、背中で揺れる。
ピエロの赤い髪の下からは、聖女様特有の水色がのぞいている。

「リュウ!ほら、見て!聖女のストーンのレプリカだよ」

土産物を売っているショップではしゃぐピエロは、早速店員に目をつけられている。
聖女エセルもガルドストーンを持っていて、そのレプリカを発見したらしい。

「自分だってでっかいの持ってるじゃん」
「しかも本物」

ツッコまれても、ピエロはこもった声で駄々をこねる。

「違うよ!形は違うけど、みんなでお揃いで持ちたいじゃないか」

子供の様な我儘も、彼らしい。
あの少年は、出会った頃の幼い無垢な心を持ったまま大人になってしまった。

「申し訳ありません。館内では被り物はご遠慮ください」

遂に注意されてしまった。
が、逆にここまで放置されていたのが不思議なくらいだ。

「申し訳ない。すぐ外させます」

リュウが警備員に謝って、ピエロを小突いて促す。

「はーい」

もじゃもじゃの赤い髪を掴んで引っ張ると、マスクからさらりと髪が溢れる。
それはきらきらと輝いて、白い首筋を隠した。
その特別な髪色も、よく見知った相貌も、それが彼の身分証明の代わりだ。

「ごめんなさい」

白くなめらかな肌。
すっと通った鼻梁に、シャープな輪郭。
形の良い艶やかな口唇は微笑をつくり、耳に心地のいい澄んだ声を漏らす。
長い睫毛に、くっきりとした二重の目。
透き通る様な水色の虹彩。

「こっそり来ようと思ったんだけど、ちょっと変装間違っちゃったかな」

警備員は言葉をなくし、目を丸くしてあわあわと両手を動かした。

「こ、これは…!失礼を…!」

やっとで声を絞り出し、深く頭を下げる警備員に首を振る。
そして見つかってしまうと、あっという間に人が集まって囲まれてしまった。

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