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ドラゴン

夫婦が部屋へ戻ると、カーテンがばたばたとはためき、開いた窓から雨が吹き込んでいた。

「大変!」

窓際に置かれたベビーベッドで、我が子が雨に打たれて泣いていたのだ。
妻が急いでかけ寄って抱き上げると、夫は窓を閉めてから使用人を捜した。

「何てことだ!」

使用人はバスルームで縛られ、タオルで猿ぐつわをされて倒れていた。
意識は無いが、息はあるようだ。
夫が拘束を解いていると、妻の叫ぶ声が夫を呼んだ。
夫が駆けつけると、妻は赤ん坊を抱いてベッドの傍らで座り込んで泣いていた。
まさかと思い抱えられた我が子を確認したが、赤ん坊には何処も怪我は無い。
そして、気付いた。

「もう一人は……?」

ベビーベッドが一つしかなかったから、もう一人はベッドに寝かせておいたのだ。
使用人が別のところに移したのかと思い捜したが、屋敷中を捜しまわっても赤ん坊は見つからなかった。

意識を取り戻した使用人は、突然窓から侵入してきた男達に襲われたのだと言った。
意識を失う前に聞いた会話の内容を聞いて、夫婦はその意味がわかった。

『おい、どっちだ!?』
『石だ!子供に石を近づけろ』
『見つけた!こっちだ!』

一族にこの事件が知らされると、夫婦は子供を渡すのが嫌で隠したんだろうと疑われた。
誘拐されたのが『御子』と認められた方の子供だったからだ。
だが屋敷の使用人や他の目撃衝撃から、夫婦の疑いは晴れた。

当主は、陰謀だと断言した。
これは大国の陰謀だ、と。

御子を奪われた一族は、やがてゆるやかに衰退していった。

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あきゅろす。
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