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極道うさぎに恵みあれ

明らかに彼とは不釣り合いな後ろの席の友人は、きっとおとなしくて臆病な彼を脅して無理に付きまとっているに違いない。
そう思ってしまうほど周囲は本来の彼を知っていたし、知っているからこそ「可愛い」という感情を抱かせる。

更にはそのユッキーと呼ばれる人物の友人が運悪く彼の右隣の席になってしまった事で、周囲の心配は煽られた。

「龍円紫央[リュウエンシオウ]」

名前だけ言ってさっさと座ってしまった強面の人物はガタイが大きく、不用意に関わってはいけないという危険な雰囲気を放っている。
威嚇する様な鋭い目付き。
その黒髪は毛先をツンツンと跳ねさせて、いくらか横や後ろに流した前髪も跳ねさせてある。
ユッキーには頷ける友人だが、ユッキー同様、恵には不釣り合いだと判断された。

これまでもそうだった様に、学校とは相談して家の事は伏せてあった。
こんなのほほんとした人物がまさか極道の家に生まれたとは誰も予想出来ない。
そうして親心にも似た周囲の心配は順調に膨らんでいく。


二年になって初日ではあるが、早速授業は始まる。
その休憩時間を見計らって携帯を鳴らすその人の名前がディスプレイにあらわれ、小さく声をもらす。

「あ」

授業中に電源を切っていなかった事をそこで初めて気が付いた。

「何々めぐちゃん、お電話ー?」
「テメェ、その喋り方気色悪ィんだよ」
「うっせぇ!」

ユッキーと恐い友達の口喧嘩はしょっちゅうだから気にするなと言われても、今は電話をとりたいからやめてほしい。

「女には冷たいくせによ」
「女にはそれなりに優しいっつーの!俺は男に重きをおいてるだけなんだよ、ねー?めぐちゃーん?」

通話ボタンを押した途端話し掛けられて間抜けにあたふたしてしまう。

『もしもし、恵さん。……恵さん?』
「あっ!はい、ごめんなさい。聞いてるよ?」

大丈夫でした?と気遣う三嶋さんは過保護だから、よくこうして電話をしてくる。

『初日、いかがでした?お友達とは仲良く出来ましたか?苛められてはいませんね!?苛められたらすぐに言って下さい!!この三嶋が…!』
『三嶋さん!落ち着いて!落ち着いて下さい!!』
『おっと……失礼しました』

電話の向こうで興奮した三嶋さんを勇君がなだめてくれたようだ。
心配してくれているのは嬉しいから一人でへらへら笑ってしまう。

「大丈夫だよ?」

伝わったのか、三嶋さんがふっとかすかに息を吐き出して笑うのがわかった。

『じゃあついでに今日のお弁当のメニューを』
「あーっ、だめ!せっかく楽しみにしてるのにー」
『はいはい』

くすくす笑う声が届いて、むくれながらも我儘過ぎたかと思い恥ずかしくなってくる。

『では、この後もお勉強頑張って下さい』
「うんっ」

ばいばい、と言って通話を終えると正面に来ていたユッキーが目をキラキラさせていた。

「めぐちゃーん!!君は…!何て可愛いんだー!!」

バシバシ机を叩いて、電話のこちら側でも興奮している人が居る。


散々騒ぎ、またもや恐い友達と言い合いになったユッキー。
可愛いなんて言われて嬉しいのは兄や家の人ぐらいで、それは愛情を持って言ってくれているとわかるから。
大切に思われていると感じるから嬉しい。
実際可愛くもないのに言われても疑問を感じるばかりで、素直には喜び難い。


三嶋さんが作ってくれるお弁当を手に来たのは、屋上へと続く階段の最上段。
屋上は立ち入り禁止だから、下の廊下から見えないこの場所は一人になるには絶好の場所。

お弁当箱を包むオレンジの結び目を解いて広げ、ふたを開ける。

「こんな所で一人で食べてて寂しくない?」

突然の声にびくりと肩が跳ね、見ると下の方から顔を出しているユッキー。

「びっくりした」

ドッキリ成功と言わんばかりにあはは、と笑って隣まで来るとそこに座る。

「めぐちゃんは大概ここでお昼食べてるって聞いたから」

人に言った覚えはないのに一体誰から聞いたのだろう。
恐らくここに来るのを見られていたのかもしれない。

「何で一人で食べてんの?」
「俺、食べるの遅いから。だから、人につられて、よく噛まないで急いで食べたらダメですって」

納得してくれたのかしてくれてないのか、ふーん、と言うと、手に持っていたビニール袋を足元に置いた。

「じゃ、一緒にここで食べていい?」

にっこり微笑んで答えを待つユッキーが本気らしいとわかると、思わず自分まで笑ってしまう。

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あきゅろす。
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