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極道うさぎに恵みあれ
第一話 愛されうさぎに恵みあれ
だらだらと支度をして一階へ下りていくとダイニングには朝食が用意されている。
キッチンから現れ朝から威勢よく挨拶をする勇[ユウ]君。
ジャケットを脱いだワイシャツ姿にエプロンをするのも見慣れた風景。
二つ年が上だけれど、長い茶髪を揺らして四十五度、頭を下げる。
歯を見せて悪戯っぽい笑みを浮かべる彼におはよう、と言うと照れた様に笑ってキッチンに引っ込んだ。

かわりに現れた三嶋さんがテーブルに朝食の皿を並べ、目が合うとニッコリと微笑んだ。
つられて笑い返すと置きかけの皿がガチャリと音を立ててテーブルを叩く。

スクランブルエッグとカニの形になったウインナー、ポテトサラダが一つの皿に盛られ、どちらでも好きな方を選べるようトーストとロールパンの二種類が用意されている。
他にもヨーグルトやフルーツが並び、毎朝贅沢な朝食で満たしてもらっている。
なのに時々誰かと一緒に食べたいと思うのは贅沢の言い過ぎだろうか。
三嶋さんと勇君が居るだけで寂しくなく過ごせているのに。


登校が車なのは家の事もあって心配だから、というのは納得出来る。
けれど黒塗りの高級車から降りるのはさすがに恥ずかしい。
だからもっと普通のにして、と三嶋さんに頼んだらニッコリ笑ってうちはこれが普通です、とお母さんみたいな言い分で却下された事がある。
後部座席でだらりと体を預けながら、やっぱりそれも贅沢な悩みだと思い直す。

はぁっ、と控えめに息を吐き出してふと視線を動かしたらバックミラー越しに運転手さんと目が合った。
するとバッとそらされ、その顔が赤くなる。
専属で運転手をしてくれている彼はまだ若く、勇君より上には見えるけれど兄とは近いんだろうかと考えさせられる。
でもいつもこうやって目が合う度に勢いよくそらされるから話し掛け難い。

高校からは少し離れた場所でとめてもらい、お礼を言って降りる。
わざわざ降りてドアを開けてくれた運転手さんは、深々お辞儀をして大袈裟に行ってらっしゃいませ!と声を上げる。
誰かに見られたら何事かと思われるから焦る。
が、きちんと言うべき事は言わないと。

「行ってきます」

年上であろう人に対し失礼かとは思うけれどひらひらと手を降ってしまう。
だけど笑ってくれるから結局いつもしてしまう。


時間にしてほんの数分歩いて見えた校門には「男子校」の文字。
中高一貫のそこには黒いブレザーの生徒が溢れている。

二年に進学し自分のクラスを確認したいが、人の群れにわざわざ突っ込んで行きたくなくて後方で立ち尽くす。
昇降口に貼り出されたクラス分けに一喜一憂している彼らが少なくなるまで待っていたら遅刻するだろうか、と不安に思っていたらそこから見知った顔が現れた。
人好きのする明るい笑顔で呼びながら手を上げる。

「めぐちゃーん。おはよー!」

その声で複数の視線が向くのを感じながらも彼におはよう、と挨拶する。

ユッキー、こと堀ノ内政幸[ホリノウチマサユキ]は見上げないと目が合わない。自分も割と背が高い方だと思うのに。
肩につくほど長い金髪で、広く開けられたシャツの襟からはネックレスが覗いている。
腕にもブレスをしていて、一見すると不良っぽい人。かと思いきや、話してみると楽しい人だった。
うちの組の人達と同じく、見た目はちょっとばかし恐くたって実は中身は優しかったりする。

「よかったねー、今年は同じクラスになれたよ俺達ー!」
「同じ?」

両肩をぱしんと叩くユッキーに首を傾げる。

「まだ見てない?」

頷くと一緒に行こ、と抱く様に背に手を回されてそのまま教室へと連れられた。


長身で、トゲの無い優しげな空気をまとい、甘いマスクと称するに相応しい彼が時折見せるあどけない表情。
雰囲気と同様に話し方も非常に穏やかで、のんびりおっとりしている。
純粋な心は無防備で、身近の男達をそれで虜にしてきた様に、意識せず働いてきた武器。

自ら積極的に人と関わろうとするタイプではない彼が、気取ってる、気に入らない等といった感情を持たれないのはそこに起因する。

進学して初日での自己紹介では、緊張し普段にも増して引き締まった彼の表情に新米の教師はモテるだろう、とツッコむ。
緊張から別に、と短く答えただけの彼のギャップを知っていながらも、やはりいちいちクールだのカッコイイだのと騒ぎたくなるのは周囲。

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あきゅろす。
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