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極道うさぎに恵みあれ

今から殺す人間の話を聞いてしまうなんて。この人はこういう事に慣れてないのかな、と思った。

「どうしてそんな考え方になれるんだ……。殺されるかもしれないのに、何故そんなに冷静なんだ」
「必要があれば、役に立つ為にそうしなくちゃいけない。それも自分の役割の内なんだよ」

兄が自分を家業と関わらせないようにするのはそういう事だ。
何かあった時、命を落とすかもしれない事には関わらせたくないのだ。
だけどこの藤城家(いえ)に生まれたからには、そういう事も覚悟しておかねばならない。
どうせ殺されてしまうなら、せめて家の役に立つ死に方をしなきゃ。と考えるのは、やはり藤城の血を受け継いでいるからか。
それとも環境がそうなる事を強いるのか。


「殺す気はない。俺は、ちょっとこわい目に合わせろと人に頼まれただけだ。相手が子供だって知ってもともと気が進まなかったし、それもやめる」
「……いーの?」

約束を破ったら、その頼んだ相手に何かされるんじゃないだろうかと心配になる。

「ああ。依頼した人間の事も全部話す。その代わり色々と保証してもらいたい」

男はこちらに寝返る事にしたようだ。
あとは兄と詳しい交渉をするだろうと思い、安心もさせたくて一番にいっちゃんの携帯にかけた。

『恵!?』

二回目のコールの途中で出た声は必死で、それだけ心配させてしまったのだと思った。

「いっちゃん。大丈夫。平気だよ。ちゃんと帰れるから」
『何があったんだ!今、何処に居る!?』
「学校で知らない人に捕まって車に乗せられたんだけど、こわい目に合わせろって頼まれた人がやめるって。だから今その人と家に向かってる」
『なるほど。喋らなくてもいいから、家に着くまで電話を繋いだまま居なさい。いいね?』
「わかった」

まだ安心出来ないと警戒しての事だろう。
言われた通り電話は切らずに、そのまま膝の上に置いた。


家の前に着くと、そこにはいっちゃんや三嶋さん達の他にも、運転手さん達や組の人達まで何人も集まっていた。

「ただ今帰りました」

皆が安心して名前を呼び、よかったよかったと口々に喜んでくれた。
人前なのに、いっちゃんは構わずぎゅっと抱き締めて、お帰りと言ってくれた。

「家に入ってなさい。終わったら必ず行くから」
「うん」

いっちゃんがそれぞれに視線を投げると、組の人達がさっと男を囲んだ。
三嶋さんはそのままいっちゃんの後ろに控え、俺は荷物を持ってくれた勇君に急かされて家に入った。


いっちゃんが来たのは随分時間が経ってからで、既に日が暮れていた。
二人で話したいからと、俺の部屋に行ってベッドに腰掛けた。

「ごめん、恵。俺のせいだ」
「何で?」

理由も聞かないのにそんな訳ないと思ったのは、いっちゃんはいつでも完ぺきで、何でも出来るすごい人だと信じているからだ。

「俺に縁談があったのは覚えてるね?それを断ったのも」

その声色は暗く、どこか悲しげだった。
うんうんと頷くと、珍しくいっちゃんは溜息をついた。

「あれは向こうの組とも、完全に納得した形で解消したんだ。女性の顔を立てる為に向こうから断る形にしたのも、全部承知済みだった」

相手から頼まれて、こちらは渋々受けたのだと三嶋さんから聞いた気がする。
断る時も、弟が大事だという話ばかりをして向こうが怒ったと。

「だけど向こうのお嬢様は、ふざけた理由で傷物にされたとご立腹らしい。それで組には黙って、単独で暴走した」
「いっちゃんのせいじゃない。いっちゃんはちゃんと…!」
「いや。組が承知したからって、油断してたのは俺だ。恵に恐い思いをさせてすまなかった」

逆恨みし、相手の女性が一人で暴走しただけで、いっちゃんが悪いんじゃないのに。

「謝らないで?いっちゃんの責任じゃないから。俺は無事だったんだし、それに……」

言えば、またいっちゃんに余計な心配をかけるかもしれない。
だけどいっちゃんが辛そうに謝るから、言わずにいられなかった。

「こういうのも運命なんだよ。ウチに生まれたんだから、ちゃんとわかってる。いっちゃんが守ってくれてるのもちゃんとわかってるから、自分のせいだなんて思わないで」

やっぱり。
いっちゃんは、とても辛そうに笑ってみせた。
そうしてぎゅっと抱き締めて、頭を優しく撫でてくれた。

「いっちゃん。心配してくれてありがとう。捜してくれてありがとう」
「恵。生きててくれて、ありがとう。一人にしないでくれて……ありがとう」

そんな言葉を聞いたら……。
俺は涙を堪えながら、いっちゃんの背に腕を回す事しか出来なかった。

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