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極道うさぎに恵みあれ

長身で体格もいい一弥は高そうなスーツを着こなし、高級車から降りる姿も様になっている。
凛々しいこの青年からは品の良さも感じられ、身のこなしもどこか優雅に見えた。
その印象から、単に高収入の職に就いているというより、良い家柄の子息といった方がしっくりくる。

一弥は生徒や保護者らの注目を浴び、明らかに浮いていた。
教室の前で準備が整うのを待っていた保護者らと、生徒もちらほらそこに残っていた。
一体彼が誰の保護者かとチラチラ気にして世間話もおろそかになり、場には何となく気まずい空気が流れていた。
そんな状況でも一弥は動じず、いつもの様にピシッと背筋を伸ばして待っていた。

居心地の良くない空気を打破したのは、長い黒髪を揺らした若い女性だった。
一弥と同世代と思われる女性はスーツ姿だったが、いくらかスカートが短いし、学校に来るにしては化粧も他の保護者に比べて派手だ。

「こんにちは〜」

誰が聞いたって媚びた声色で、集まっている主婦達は皆一様に不快な気分になった。
背の高さを気にしているのか、一弥を下から覗き込む様に少し屈んでいるのも計算高い印象を与えた。

「こんにちは」

爽やかな微笑を浮かべた男前に、女性は内心でルックスに合格を出した。

「同じクラスですよね?私、龍円紫央の姉ですぅ。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。藤城の兄です」

一弥は笑みを崩さず、丁寧に頭を下げた。

「お仕事は何をなさってるんですかぁ?」
「会社の経営を」
「あっ、そうなんですか〜!」

驚いてみせながら、紫央の姉は内心で歓喜した。
別にオトせると決まった訳ではないが、一人のターゲットとしてひとまず確定した。


保護者会は順調に進み、そのまま終わるかに見えた。が、最後に保護者数名からある意見が出た。
昼食の時間に、一人で隠れて食べてる子が居るらしい、と。
聞いた瞬間、一弥はそれが恵の事を言っているのだとわかった。

「高校生は給食じゃないから、何処で食べたっていいんでしょうけどね?でも人目のつかない所で一人で食べてるなんて、いくらなんでも……」
「クラスに不良の子が居るって言うじゃないですか。友達と一緒になって大人しい子に絡んでるって。だから教室に居られないんじゃないですか?先生はちゃんと見てるんですか?」

恵がいじめられている事になりそうな流れだが、反論も出た。

「それって藤城君じゃないですか?うちは去年も一緒でしたけど、藤城君はずっとそうだったって聞いてますけど」
「うちも一緒でしたけど、普通の友達じゃないんですか?だって、最近はその子達と一緒に食べてるんでしょう?」
「パシリにされたりいじめられてたらどうするんですか?断れなくて困ってるかもしれないのに」

名前が出てしまったせいで、一弥によく思われようとそれぞれが反射的に考え自然とそう動き始めた。
紫央の姉を場違いだみっともないだなどと批判的に見ていた彼女達も、結局一人だけ抜け駆けして話し掛けた事に嫉妬していただけに過ぎない。
それが無意識であるからこそ、一見無関心にうつっていただけで。
紫央の姉は、ここぞとばかりに恵を心配しだした面々の必死さを目の当たりにして呆れかえった。

「知らん顔してますけど、不良って龍円さんトコじゃないんですか」
「は!?ウチ!?」

確かに紫央は目付きも態度もよろしくはないが、そんな情けない事などしないと思っていただけに不意打ちだった。
恵への同情と紫央への批判が口々に発せられる。

「弟はそんな事しませんっ!見た目で判断しないで下さい!」

ハッキリと否定した姉は、堂々としていた。
重苦しい空気が漂い、一弥の意見を聞きたいと考える保護者の視線が徐々に一弥に集まった。

一つ、ゆっくり呼吸をして、一弥は静かに口を開いた。

「弟は大人しくて気が弱いように思われるかもしれませんが、本当はとても強い子です」

皆、その穏やかに語る声に耳を傾けていた。

「両親は居ないし、私も忙しくてなかなか一緒に居てやれないので、家庭では一人で食事をとる事が当たり前になっています。学校でもずっと一人でしたし……。だから、一緒に昼食を食べる友達が出来たとすごく喜んでたんです」

一弥の味方についたと思っていたのに、実は見当違いだった事を知り保護者達は恥ずかしくなった。

「兄の私が言うのも何ですが、弟は不良だからと言って偏見を持ったりしない子です。堀之内政幸君や、龍円紫央君とも、弟は仲良くなれて嬉しいんですよ」

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あきゅろす。
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