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極道うさぎに恵みあれ

教室に行く前に職員室に寄って、担任に保護者会の事を伝えた。
前にだらしないから語尾を伸ばすなって言われたから気にしてたのに、それでもまた指摘された。

「藤城、もうちょっとしっかりしないと。ぼーっとしてちゃダメだぞ」

確かにちょっとぼーっとしてるところもあるかもしれない。
それは認める。
でも、言われる程頼りなくはないと思う。

「見た目はしっかりしてそうなんだけど、実際違うからな」

その緩んだ表情を見て、先生は本当のお前をわかってるんだ、と言いたいんだと感じた。
理解者になろうとしてくれてるのは嬉しい事の筈。
なのに、何故か素直に喜べなかった。


教室に行くと、挨拶の後でユッキーが顔を覗き込んで言った。

「大丈夫?」

いつもと変わりないトーン。
ただ、自分は心配されるような顔をしていただろうか。
何も気にしていないつもりだったのに。

「大丈夫だよ?」

何にも無い。
心配されるような事は何も。

ユッキーは何か言いたげに、そっか。と頷いた。


昼食は俺とユッキーが先に階段に向かって、紫央君がユッキーの分も買って後からくるというのがパターン化してきていた。
まだ二人の階段で、ユッキーは静かに口を開いた。

「めぐちゃんさ……アイツの事、苦手だったりする?」
「アイツ?」

首を傾げると、紫央君の名前が出た。

「恐いかもしんないけどさ、アイツあれで結構めぐちゃんの事気に入ってるみたいだし」

聞いて、後悔した。
暴力的な一面を見てしまったからって、やっぱり勝手に恐がるんじゃなかった。

「今朝紫央君がケンカしてるのを見て……。だから、ちょっと恐いのかもしれないって思った。けど、そんなの良くないでしょ!?」

見た目で誤解されるのは気持ちがいいもんじゃない。

「話してみなきゃ、わからないのに……」
「そーかぁ。でもやっぱちょっと恐かったんだ?」

含み笑いで言われたのが図星で答えられないと、ユッキーは小さく吹き出した。

「だって紫央君は優しい人だからっ、ケンカとか……想像出来なかった」

言い訳が尻窄みになる。

「それ聞いたらアイツ嬉しいかもなぁ」
「本当?」
「ホント」

空気が和やかになって、間が空いても気まずくない。
そんな中に響いたのは携帯の着信音だった。

「わぁあっ!」

咄嗟に口を塞いだけど、もう十分に響いてしまった。
ディスプレイに表示された名前があまりに意外だったから。

「どうしたの!?いっちゃんが!いっちゃんから電話来た…!」

狼狽える横でユッキーは腹を抱えて笑い出した。

「あっはは!早く取りな、ホラ切れちゃうよ」
「もっ、もしもし…!」

緊張して出ると、いっちゃんの穏やかな声が届いた。

『今大丈夫だったか?』
「うん、大丈夫」

優しい微笑が見える様な声色を聞くだけで、自然とこちらまで笑みが浮かぶ。

『時間が出来たから、今日は帰りに迎えに行くよ』
「本当に!?」

ビニール袋を提げた紫央君が現れると、ユッキーは早速さっきの狼狽え様を話し始めた。

『恵とは、少しでも時間が空けば会えるようにしたい』

本来なら浮かれて喜びたい言葉だけれど、いっちゃんの声が真剣だったから、そっと噛み締めて頷いた。
きっと、俺が寂しいって言ったのを気にしてくれているんだ。

「嬉しい」

これ以上どうやって、この満たされた想いを伝えればいいのか。

「いっちゃん。大好きっ」

他に言葉が見付からないのがひどくもどかしい。

『俺もだ』

ふっと笑った息づかい。
今どんな顔をしたか手に取る様にわかる。

切るのが名残惜しいけれど、今日はまたすぐに会える。
約束されている。


切った途端、ユッキーは床を叩いて今のは誰だと詰め寄ってきた。
お兄ちゃんだと言ったら言ったでまた悔しがる。

「めぐちゃんをあんなにメロメロにさせるとは!」

ユッキーはいっちゃんがどんな人なのか興味があるらしく、もしイケメンだったら男に対するハードルが高いから危険だとか意味がわからない事を言い出した。
そして紫央に冷たい目でツッコまれる。

「それ以前に男なんか好きになんねぇだろうが」
「うっせぇ!僅かな可能性ぐらい残しとけ!」
「無ェよ、男好き」


余程気になったのか、お兄様にご挨拶をしたいと言ったユッキーは、帰りに俺と一緒にいっちゃんが来るのを待つ事になった。
紫央君は興味無いと言ってさっさと帰ってしまい、二人で昇降口の前に座る。

「めぐちゃんは、お兄ちゃん好き?」
「うん。好きー」

あまりにさらっとお兄ちゃんが好きなんて答えたから、ユッキーにも子供っぽいと言われるかもしれないと、言った後で気付いた。
けれどユッキーはそんな事は言わず、ただ嬉しそうに話を聞いた。

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あきゅろす。
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