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03:まどろむ場所はここがいい
「ここはな――」

「……」


授業でやるよりも先生は、丁寧に分かりやすく教えてくれた。教科書を開いてシャーペンで指しながら説明を始める。
私は間近にいる原田先生の真摯な顔に見とれていた。細められた目はとても色っぽく感じて―。


「聞いてるか、鈴木」

「は、はい!」

「じゃあ、こいつは何をやった人物だ?」


私は問題を指されて慌てた。実際はうっとりと原田先生を見つめていただけで、耳は機能していなかったから。
問題文をじっくりと目を通しながら、背中に嫌な汗が伝うのを感じる。静かな自習室の時計の時を刻む音が、私を余計に焦らせた。


「分かんねぇか?」

「う、…」


歴史というのは大半が暗記で、数学のように計算で解けるものでもない。私はぽつりぽつり先生に伝えた。「今日覚えてくるので、明日も見てくれませんか」と。
言い終わった後、自分に驚嘆した。恋とは恐ろしくも、自分の内気な性格さえも変えてしまうらしい。


「あぁ、分かった。明日も見てやっから。この範囲から二十問出題するから勉強しとけよ」


原田先生は教科書の範囲に印しをつけた。


「…っと、そろそろ暗くなるな。鈴木、明日問題を一問でも間違えたら…単位落とすぞ」

「え、それはあまりにも横暴です!」

「明日忙しいんだよなー、鈴木の為に時間を割いて…」

「っ…、分かりました!満点取りますから、ビックリしないで下さいね!」

「じゃ、期待してるな」


何故か、私の単位の命運が天秤にかけられてしまったらしい。原田先生とまた二人きりであえるのは嬉しいのだけど。
「じゃあ帰ります」と先生に告げて席を立った。


「原田先生。さようなら!」

「気をつけて帰れよー」


鞄を引っ掴み、脱兎の如く昇降口に向かった。
頑張って覚えないと!と意気込みながら。




0219/0322 By Shady


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