「ここはな――」 「……」 授業でやるよりも先生は、丁寧に分かりやすく教えてくれた。教科書を開いてシャーペンで指しながら説明を始める。 私は間近にいる原田先生の真摯な顔に見とれていた。細められた目はとても色っぽく感じて―。 「聞いてるか、鈴木」 「は、はい!」 「じゃあ、こいつは何をやった人物だ?」 私は問題を指されて慌てた。実際はうっとりと原田先生を見つめていただけで、耳は機能していなかったから。 問題文をじっくりと目を通しながら、背中に嫌な汗が伝うのを感じる。静かな自習室の時計の時を刻む音が、私を余計に焦らせた。 「分かんねぇか?」 「う、…」 歴史というのは大半が暗記で、数学のように計算で解けるものでもない。私はぽつりぽつり先生に伝えた。「今日覚えてくるので、明日も見てくれませんか」と。 言い終わった後、自分に驚嘆した。恋とは恐ろしくも、自分の内気な性格さえも変えてしまうらしい。 「あぁ、分かった。明日も見てやっから。この範囲から二十問出題するから勉強しとけよ」 原田先生は教科書の範囲に印しをつけた。 「…っと、そろそろ暗くなるな。鈴木、明日問題を一問でも間違えたら…単位落とすぞ」 「え、それはあまりにも横暴です!」 「明日忙しいんだよなー、鈴木の為に時間を割いて…」 「っ…、分かりました!満点取りますから、ビックリしないで下さいね!」 「じゃ、期待してるな」 何故か、私の単位の命運が天秤にかけられてしまったらしい。原田先生とまた二人きりであえるのは嬉しいのだけど。 「じゃあ帰ります」と先生に告げて席を立った。 「原田先生。さようなら!」 「気をつけて帰れよー」 鞄を引っ掴み、脱兎の如く昇降口に向かった。 頑張って覚えないと!と意気込みながら。 0219/0322 By Shady |