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20:溺死寸前に掬いあげて
こう、急に平衡感覚がなくなるみたいに身体がぐらついて足を踏張る。
慌てて目を開けると、原田先生は机に向かってなにやら書いていた。
それを見てあれ?と矛盾に気付く。


「…っ!先生?!」

「鈴木ー、やっと起きたかぁ。寝言言ってたぞー」


先生は“やっと起きたか”と言った。
もしかしなくても夢を見ていたのだろうか。夢の内容を思い出して、急に恥ずかしくなった。
何ていう夢を見ていたんだ!

そんな顔を見られたくなくて、自分の足に視線を移して聞いた。


「…であの、用事って」

「あぁ、遅くなって悪いな」

「!これ」


先生は一枚のプリントを私に渡す。
それはいろいろな大学のオープンキャンパスの案内などだった。


「二者面の時、進学したいっつってただろ?で、少しでも力になりたくて調べてみたんだが…」

「あ、ありがとうございます!」

「鈴木だけだから、他の奴には内緒、な」


先生がわざわざ私の為にしてくれた。なんて、感謝の気持ちでいっぱいで嬉しさで顔が綻ぶ反面、迷惑をかけてスミマセンという気持ちが胸を占めた。


「…、なぁ」

「はい?」


いつになく真剣な瞳で私を見、先生はゆっくりと言葉を紡いだ。


「鈴木は、平助と付き合ってんのか」

「え」

「いや、よく職員の方にも噂は届くんだよ」

「先生」


それってどういう意味で言ってるのか疑問が私の中に渦巻いた。
期待してもいいの?
これも夢?
全身が火照る。


「私…」

「いや、まぁ…俺が聞くことじゃないよな」

「……っ」

「……」


決意して言おうとしたら、先生に遮られ頭に優しく手を置かれた。
その言葉は拒絶されているみたいに感じた。
私と先生との見えないライン、線があるみたいに。それを断ち切りたくて、震える口を開いた。


「私!先生のこと、諦められないです!」

「……」

「このままでもいいです。けど少しは希望があるって…期待してもいいですか」


先生のその困ったような顔は、やがて笑みに変わっていった。




0615 by睡眠発作


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