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19:君の体温に沈む
藤堂くんとは一度も会話をすることのないまま、帰りのSHRが終わった。


「あー、…鈴木!」


バッグを片手に持って、後ろのドアから教室を出ようとすると原田先生が大声で私を呼び止めた。


「はい?」

「用があるから、少し準備室で待っていてくれ」


それを見て、一緒に帰ろうとした友人が「…何かしたの千佳?」と聞いてくる。


「何もしてない、けど…。あ、先帰っていいよ」

「そか、分かった。じゃあまた明日ね」


手を振って友人と別れを告げる。
待っててほしい気もしたけれど、友人は用事があると言っていたので言うのをやめた。
友人は優しいから「待ってるよ」という返答が安易に予測できたから。

原田先生と気まずくて、教壇に先生が立っている近くの前のドアは避けようとしたのに。
こうも話し掛けられたら、どう反応すればいいのだろう。

そうしなくても原田先生はモテるから、今も女子グループに囲まれていた。


「左之せんせ、今日一緒に帰ろ!」

「俺は用事があるからまたな。そういえば、お前らは掃除当番だろ!ちゃんと行けよ!」

「それは分かってるって!でさ、せんせイケメンだし付き合ってよ!」

「お前じゃムリだろ!…せんせ、あたしと付き合わない?」


ぎゃははと不快な笑い声が聞こえてきて、見たくも聞きたくもなかったから足早に準備室に向かった。



準備室に入る。そこはやはり無人だった。
ここに来るとイヤでも思い出してしまう、数日前のことが。

原田先生の用事が何だか検討もつかないまま、机の向かい側にあるイスに座った。




不思議と気が付いたら、目の前に原田先生がいた。
睫毛を数えられるほどの至近距離。


「えっ?!」

「…千佳」


先生の目を見た瞬間、吸い込まれるように動けなくなった。
私の名を呼ぶ原田先生の少し枯れた声。頬に触れる手。それが私の心拍数を上げていく。


「先生…」


ゆっくりと原田先生の顔が近づいてくる。私の身体、全体が熱く火照って成り行きでぎゅっと目を瞑った。

そして、そっと口唇に触れた熱。
でも直ぐに離れていってしまう。
驚きで、私はとっさに口を手で覆った。




0602 byチェリー


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