校門をくぐると、いつも校庭には朝練をしている生徒がちらほらいて「青春してるなぁ」と心の隅で思いながら職員室に足を向ける。 「おはようございます」 いつものように既にいる先生たちに挨拶をする。 自分の机に荷物を置き、椅子を引いて座る。机の上にあったプリントを手に取り頬杖をついた。けどプリントを読んでいても内容がよく頭に入らなかった。 要約すると、校則のことやこのような生徒には指導をしてくれといった内容らしい。細かなチェック項目なんて見る気は起きず、ファイルにしまった。 昨日から消化不良みたいに胸がモヤモヤした。 自分でも理由は分からなかった。 どうしようもなく、両手で髪を掻き毟って息を吐いた。 「は…」 「どうしたんだよ、左之」 「土方先生…」 「ため息ついて、らしくねぇぞ」 肩を叩いてきたのは先輩の土方先生だった。 土方先生は同じ学年の国語担当の先生だ。厳しく怒ると怖い先生で、生徒の間からは“鬼教師”と呼ばれていたりするのだが、根は優しい先生で結構人気だ。 趣味は俳句(を作ること)、らしい。俳句の範囲の授業がある時は、上機嫌になるという噂があったりする。 「何だァ、恋煩いか?」 「そんなこと無いですって」 「お前の好きだった女が取られちまったってところか? 教師ってんのは自由に恋愛出来ねぇし、なんたって教え子だから、なぁ左之」 ぺらぺらと勝手に喋る土方先生を冷ややかな目で見ながら苦笑した。 「別に生徒に恋したって訳じゃあないですよ。そもそも恋の話じゃないですし…」 土方先生にそう言いながらも“好き”というキーワードで脳裏に浮かんだのは、あの日の涙目になりながら、勢いよく準備室を出ていく鈴木の姿だった。 「…じゃあ教室に行くので」 チャイムが鳴り土方先生との話を切り上げる。 教室に向かう足はなんだか重たいように感じた。 係に号令をしてもらい、SHRを始める。 喋りながら、ふと後ろの席の鈴木に視線を移す。けど鈴木は俯いたまま、視線が交わることがない。 何なんだ、このもどかしさは。 0531 byチェリー |