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15:胸の痛みを恋と呼ぶ
自身の口から零れ落ちた言葉に唖然として、でも次には恥ずかしさが襲ってきた。
何を言っているのだろうか、自分は。原田先生の背中を見て思った。
私は握っていた裾を離す。


「すいません…。何でもないです、忘れて下さい」


自然と早口になる自分に笑いたくなった。とにかく逃げたかったのだ。けれど先生が「鈴木」と呼ぶから、腕を掴むから、動けなかった。


「鈴木、ごめんな。気持ちは嬉しい、けど一生徒をそんな目でみれない」

「――っ」


分かり切ってたことなのに、心のどこかでは期待していたのかもしれない。
するりと腕は離されて、それが唯一繋がっていた脆い糸が切れてしまったような気がした。


「ごめ、んなさ…」


震える声で告げて、準備室から飛び出た。

ただ、胸が痛い。

だんだんと涙が込み上げてきて、どうしようもなく通路の端で蹲った。
溢れる涙は止まらなくて、嗚咽が静かな辺りに響いた。



「鈴木…?おい大丈夫か!」


最近はもう聞き慣れた声が、鼓膜を揺さ振る。ゆっくりと顔をあげると、やはりというべきか、藤堂くんがいた。


「藤どっ、くん…」


藤堂くんは、そっと近くに近寄って背中を擦ってくれた。
涙がおさまるまで、ずっと。


「ありがと…」

「いや…。それより早く帰ろうぜ」


゙もう暗いしざと藤堂くんは言い腕を引かれる。
それが数十分前の先生とダブってしまい、悲しくて振り払ってしまった。


「ご、ごめん…」

「いや」


気まずい雰囲気の中、そっと手が触れた。思わず藤堂くんの顔を見ると、困ったように笑っただけだった。


「く、暗いし危ないし!…これなら、大丈夫だろ?」


そうして手を繋いだまま、藤堂くんと一緒に校門を出た。

先生のことで傷心していた私にはその優しさが嬉しくて、藤堂くんに縋りたくなってしまう自分がいた。

でもやはり、先生が好きなんだ。
何度も想った気持ちはこの痛みとともに降り積もるばかり。




0509 byワルツ


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