自身の口から零れ落ちた言葉に唖然として、でも次には恥ずかしさが襲ってきた。 何を言っているのだろうか、自分は。原田先生の背中を見て思った。 私は握っていた裾を離す。 「すいません…。何でもないです、忘れて下さい」 自然と早口になる自分に笑いたくなった。とにかく逃げたかったのだ。けれど先生が「鈴木」と呼ぶから、腕を掴むから、動けなかった。 「鈴木、ごめんな。気持ちは嬉しい、けど一生徒をそんな目でみれない」 「――っ」 分かり切ってたことなのに、心のどこかでは期待していたのかもしれない。 するりと腕は離されて、それが唯一繋がっていた脆い糸が切れてしまったような気がした。 「ごめ、んなさ…」 震える声で告げて、準備室から飛び出た。 ただ、胸が痛い。 だんだんと涙が込み上げてきて、どうしようもなく通路の端で蹲った。 溢れる涙は止まらなくて、嗚咽が静かな辺りに響いた。 「鈴木…?おい大丈夫か!」 最近はもう聞き慣れた声が、鼓膜を揺さ振る。ゆっくりと顔をあげると、やはりというべきか、藤堂くんがいた。 「藤どっ、くん…」 藤堂くんは、そっと近くに近寄って背中を擦ってくれた。 涙がおさまるまで、ずっと。 「ありがと…」 「いや…。それより早く帰ろうぜ」 ゙もう暗いしざと藤堂くんは言い腕を引かれる。 それが数十分前の先生とダブってしまい、悲しくて振り払ってしまった。 「ご、ごめん…」 「いや」 気まずい雰囲気の中、そっと手が触れた。思わず藤堂くんの顔を見ると、困ったように笑っただけだった。 「く、暗いし危ないし!…これなら、大丈夫だろ?」 そうして手を繋いだまま、藤堂くんと一緒に校門を出た。 先生のことで傷心していた私にはその優しさが嬉しくて、藤堂くんに縋りたくなってしまう自分がいた。 でもやはり、先生が好きなんだ。 何度も想った気持ちはこの痛みとともに降り積もるばかり。 0509 byワルツ |